過失相殺
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 大澤 一郎
過失相殺のルールを知っていれば被害者は適正な補償額をもらえます。
この記事では過失相殺に悩んでいる被害者の方に向けて、過失割合決定までの流れ、交渉のポイント、過失相殺で損をしない方法などを、交通事故に詳しい弁護士がわかりやすくお伝えします。
なお、過失相殺は複雑な問題ですので弁護士へのご相談をお勧めします。
―――― 目次 ――――
- 1. 過失割合とは
- 2. 過失相殺とは
- 3. 過失割合決定までの流れ
- 4. 過失割合の交渉のポイント
- 5. 自分の過失がある場合に損をしないためのポイント
- 6. 過失相殺される分の補償を受ける方法
- 7. 過失相殺のよくある勘違い
- 8. まとめ
1. 過失割合とは
過失割合とはどの程度どちらが悪いという責任の割合です。「10対0」「7対3」などと言います。
「10対0」とは加害者の過失が100%で被害者の過失が0%のことです。
「7対3」とは加害者の過失が70%で被害者の過失が30%のことです。
過失割合は事故状況により決まります。過去の裁判事例をまとめた民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)という本に事故状況ごとの標準的な過失割合がまとまっています。
2. 過失相殺とは
過失相殺(かしつそうさい)とは、損害賠償額を決めるときに被害者の過失を考慮する制度です。
被害者に過失がない場合には発生した損害の全部を加害者が賠償します。過失相殺はされません。
被害者に過失がある場合には発生した損害の一部を加害者が賠償します。過失相殺がされます。
例えば「7対3」の場合、被害者に30%の過失がありますので賠償額が30%減ります。総損害額が100万円とすると実際の賠償額は70万円です。30万円引かれることを「30万円過失相殺された」「過失相殺が30万円」などと言います。
3. 過失割合決定までの流れ
被害者側と加害者側でまずは協議します。双方に保険会社がいるときは保険会社間でまずは協議をすることが多いでしょう。
被害者は、「今回の事故だと〇対〇」というような連絡を保険会社から受けます。加害者も同じです。双方が合意をすれば過失割合が決まります。
合意できない場合、最終的には裁判所の判決で決まります。
4. 過失割合の交渉のポイント
客観的な証拠を集めること
お互いの事故状況の主張が異なることは多いです。交差点での事故で「自分が青」と双方が主張する場合などです。
事故状況をはっきりさせるためには、客観的な証拠を集めることが大切です。
警察が作成する実況見分調書、刑事事件の記録、ドライブレコーダー画像、目撃者などが特に重要な証拠です。
標準的な過失割合を把握すること
過去の裁判事例を元にした標準的な過失割合は、民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準別冊判例タイムズ38号にまとまっています。事故状況ごとに図面があり標準的な過失割合が決まっています。また、事故状況ごとに細かい修正要素が決まっています。
納得いかない場合は粘り強く交渉すること
過失割合に納得できない場合には無理して合意する必要はありません。粘り強く交渉しましょう。どうしても合意できない場合には裁判で決めます。
ただし過失割合が決定しないと車両分の補償がもらえないことが多いです。個別の状況に応じて作戦を検討しましょう。
5. 自分の過失がある場合に損をしないためのポイント
健康保険の利用
健康保険が給付する金額は過失を理由として減額されることはありません。
自分に過失がある場合、健康保険を利用すると損をしにくくなります。
加害者側の保険会社から「健康保険を使って通院して欲しい」と言われました。どうしたらよいでしょうか?
労災保険の利用
労災保険の金額は過失を理由として減額されることはありません。
自分に過失がある場合、労災保険を利用すると損をしにくくなります。
人身傷害保険の利用
人身傷害保険の金額は過失を理由として減額されることはありません。
自分に過失がある場合、人身傷害保険を利用すると損をしにくくなります。
6. 過失相殺される分の補償を受ける方法
過失相殺されると補償額が減ります。総損害額1000 万円で被害者の過失が4 割とすると補償は600万円です。400万円はもらえません。
では、この400万円の補償を受ける方法はあるのでしょうか?
人身傷害保険や車両保険を使うと、減額分の補償を受けることができるときがあります。
人身傷害保険
自分の加入する自動車保険にある特約が人身傷害保険です。
人身傷害保険に入っていると、過失相殺分400万円の一部の補償を受けることができるときがあります。人身傷害保険の補償の対象になるのは怪我の補償です。
車両保険
自分の加入する自動車保険にある特約が車両保険です。
車両保険に入っていると、過失相殺分400万円の一部の補償を受けることができるときがあります。車両保険の補償の対象になるのは車両の補償です。
7. 過失相殺のよくある勘違い
- Q交通事故証明書の甲が加害者で乙が被害者ですか?
- A警察官の判断で、過失が大きそうな方を甲、小さそうな方を乙としています。実際の過失割合は警察官の判断と異なることもあります。
- Q防ぎようがない事故でも過失相殺されてしまいますか?
- A過失相殺されることもあります。
- Qお互いが動いていると過失ゼロにならないのですか?
- A過失ゼロの場合もあります。後ろからの追突、信号無視、センターラインオーバーなどの事故は過失ゼロが多いです。
- Q保険会社が示した過失割合に従わなければいけませんか?
- A従う必要はありません。最終的には裁判で決めることができます。
- Q物損と人身の損害は同じ過失割合ですか?
- A同じ過失割合になることが多いです。ただし違う過失割合になることもあります。
- Q自賠責保険も過失があると減額されますか?
- A減額はされます。ただし自賠責保険では被害者の過失が大きくても補償が減額となりにくいです。
過失割合と自賠責保険の減額割合の関係 被害者の
過失割合減額割合 後遺障害・死亡 傷害 70%未満 減額なし 70%以上
80%未満20%減額 20%減額 80%以上
90%未満30%減額 90%以上
100%未満50%減額
8. まとめ
- 過失割合とは、どの程度どちらが悪いかという責任の割合です。
- 過失相殺とは、損害賠償額を決めるときに被害者の過失を考慮する制度です。
- 被害者と加害者が合意すれば過失割合が決まります。最終的には裁判所の判決で決まります
- 過失割合の交渉では、客観的な証拠を集め、標準的な過失割合を把握し、納得いかない場合は粘り強く対応しましょう。
- 自分に過失がある場合には、健康保険、労災保険、人身傷害保険、車両保険を利用すると補償額総額が増えることがあります。
(監修者 弁護士 大澤 一郎)