症状固定後の治療費
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 大澤 一郎
症状固定後の治療費は原則補償対象となりません。
しかし重症の場合や将来の手術を予定している場合は補償対象となることがあります。
この記事では交通事故の被害者にむけて、症状固定後の治療費の補償ルールを交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
なお症状固定後の治療費の問題は複雑です。問題が発生しそうなときは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
症状固定とは
症状固定とは治療を継続しても効果が見込まれず、症状の改善がない状態のことです。
事故から一定の期間で症状固定になります。
保険会社は症状固定までの治療費を支払うことが多いです。他方、症状固定後の治療費を保険会社が支払うことは少ないです。
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自賠責保険や裁判での症状固定後の治療費の支払基準
では自賠責保険や裁判での症状固定後の治療費の支払基準はどのようなものでしょうか?
自賠責保険では自賠責保険の支払基準の告示(金融庁)があります。
裁判では赤い本と青い本という裁判の基準をまとめた本があります。
赤い本の基準
- 症状固定後の治療費は一般に否定的に解される場合が多いであろうが、その支出が相当なときは認められよう。
- リハビリテーションの費用は症状の内容・程度による。
青い本の基準
- 症状固定後の治療費は原則として賠償対象としては認められない。
- 症状固定後でも症状の内容、程度、治療の内容により症状の悪化を防ぐなどの必要があれば認められることになる。
- 将来治療費(症状固定後の治療費)には、症状悪化を防ぐための医療行為のみならず、将来一定時間経過後に必要となることが予想される手術費用等も含まれる。
基準の解説
症状固定後の治療費は補償対象に原則なりません。
しかし次のようなときは補償の対象となることがあります。
- 重症の場合で症状の悪化を防ぐため必要があるとき
- 将来手術をする確率が相当高いとき
症状固定後の治療費が補償対象となった事例
では症状固定後の治療費が補償対象となった事例にはどのようなものがあるでしょうか?
代表的なパターンをご紹介します。
重症の場合で症状の悪化を防ぐ必要があった事例
次の理由で月額8,247円、合計約150万円が補償対象となりました。
- 頚髄損傷、四肢麻痺の52歳(後遺障害3級)
- 神経因性膀胱による排尿困難の症状
- 自己導尿による排尿管理の必要性あり
(東京地方裁判所平成26年12月24日判決)
重症の場合でリハビリの必要があった事例
次の理由で43年分の合計約486万円が補償対象となりました。
- 高次脳機能障害、不全四肢麻痺、右肘関節機能障害の36歳(後遺障害併合2級)
- 定期的にリハビリ治療等を継続する必要あり
(東京地方裁判所平成30年7月17日判決)
将来手術をする確率が相当高い事例
次の理由で将来の手術費用200万円が補償対象となりました。
- 右膝関節機能障害の50歳(後遺障害10級)
- 将来人工膝関節再置換術を行う予定
(神戸地方裁判所平成26年3月7日判決)
症状固定後の治療費に関連する補償
症状固定後の治療費に関連する補償には次のような補償があります。
いずれも重度の後遺障害の場合などに補償対象となります。
- 将来の通院交通費
- 将来の付添看護費
- 将来介護費
- 将来雑費
将来の通院交通費
症状固定後の通院費用の補償です。症状固定後の治療費が補償対象となるときは通院費用も補償対象となることがあります。
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将来の付添看護費
症状固定後の入通院に付き添う費用の補償です。症状固定後の治療費が補償対象となるときは将来の付添看護費も補償対象となることがあります。
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将来介護費
症状固定後の介護費用の補償です。高額になることが多いです。
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将来雑費
症状固定後に発生する介護や治療のための雑費の補償です。将来介護費が補償対象となるときは将来雑費も補償対象となることが多いです。
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まとめ:症状固定後の治療費
症状固定後の治療費は補償対象に原則なりません。
しかし次のようなときは症状固定後の治療費が補償の対象となることがあります。
- 重傷の場合で症状の悪化を防ぐため必要があるとき
- 将来手術をする確率が相当高いとき
(監修者 弁護士 大澤 一郎)