自営業者の逸失利益
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 大澤 一郎
自営業者の逸失利益は事故前年度の確定申告書を元に計算することが多いです。
この記事では自営業者の交通事故被害者にむけて、自営業者の逸失利益の計算方法を交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
なお気になることがある場合、交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
―――― 目次 ――――
自営業者の逸失利益とは
逸失利益とは事故により発生する将来の収入の減少です。後遺障害が認定されたとき、逸失利益を請求できます。
関連情報
逸失利益の計算は次の通りです。
基礎収入は事故時の職業により計算方法が大きく異なります。自営業者の基礎収入は事故前年度の確定申告書を元に計算することが多いです。
自営業者の逸失利益の基礎収入の基準
では自賠責保険や裁判での自営業者の逸失利益の基礎収入の基準はどのようなものでしょうか?
自賠責保険では自賠責保険の支払基準の告示(金融庁)があります。
裁判では赤い本と青い本という裁判の基準をまとめた本があります。
赤い本の基準
- 自営業者、自由業者、農林水産業などについては申告所得を参考にするが、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とする。
- 所得が資本利得や家族の労働などの総体の上で形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定する。
- 現実収入が平均以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば男女別の賃金センサスによる。
- 現実収入の証明が困難なときは、各種統計資料による場合もある。
青い本の基準
- 基礎収入額は、通常、事故前年の確定申告所得額によって認定する。なお、青色申告控除がなされている場合は、同控除額を引く前の金額を基礎とする。
- 確定申告を上回る収入(所得)があったとする主張自体が失当とされるわけではなく、現実の収入状況が立証されれば、その金額に応じた損害算定が行われる。
- 個人事業所得者の収益が資本利得や家族の労務の総体の上に形成されている場合には、事業収益の中に占める被害者個人の寄与部分が逸失利益算定の基礎となる。
基準の解説
自営業者の逸失利益の基礎収入は確定申告の所得額で計算することが多いです。ただし、青色申告控除をしているときは、青色申告控除をする前の金額で計算します。
確定申告の所得額と実際の所得額が異なるときは、実際の所得額が証明できれば実際の所得額に応じた金額を基礎収入として計算します。
確定申告をしていないときも、実際の所得額が証明できれば実際の所得額に応じた金額を基礎収入として計算します。
自営業者の逸失利益が賠償対象となった事例
では自営業者の逸失利益が賠償対象となった事例にはどのようなものがあるでしょうか?
代表的なパターンをご紹介します。
確定申告の所得額より高額を認めた事例
次の理由で年収573万円を基礎とした逸失利益が賠償対象となりました。
- 日給制で雇用されている塗装工の63歳男性
- 右肩関節の可動域制限(後遺障害等級10級)
- 確定申告の申告所得額は約136万円
- 実際に発生する経費は通信費及び消耗品程度
- 実際の年収は573万円が相当
(大阪地方裁判所平成15年12月24日判決)
確定申告がない事例
次の理由で年収420万円を基礎とした逸失利益が賠償対象となりました。
- 居酒屋経営をする56歳男性
- 右膝可動域制限及び関節の動揺性の障害、右足関節痛(後遺障害併合11級)
- 開業1か月後の事故
- 3か月で廃業
- 開業以前の貿易会社勤務時の所得により算定することに相当性あり
- 貿易会社勤務時の所得は年間420万円
(大阪地方裁判所平成27年7月10 日判決)
まとめ:自営業者の逸失利益
自営業者の逸失利益の基礎収入は確定申告の所得額で計算することが多いです。ただし、青色申告控除をする前の金額で計算します。
①確定申告の所得額と実際の所得額が異なるときや②確定申告をしていないときも、実際の所得額が証明できれば、実際の所得額に応じた金額を基礎収入として計算します。
(監修者 弁護士 大澤 一郎)