会社役員の休業損害
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 大澤 一郎
会社役員の休業損害は、事故で減収したときに請求できます。
この記事では交通事故被害者にむけて、会社役員の休業損害が賠償対象となる場合や計算方法を交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
なお問題が発生しそうなときは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
―――― 目次 ――――
会社役員の休業損害とは
会社役員とは法人の代表取締役や取締役、監査役などです。
会社役員の場合、従業員や自営業者とは休業損害の基準が異なります。
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会社役員の休業損害の支払基準
では自賠責保険や裁判での会社役員の休業損害の支払基準はどのようなものでしょうか?
自賠責保険では自賠責保険の支払基準の告示(金融庁)があります。
裁判では赤い本と青い本という裁判の基準をまとめた本があります。
赤い本の基準
- 会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は休業損害として肯定されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である。
青い本の基準
- 取締役報酬額をそのまま基礎収入とするのではなく、取締役報酬中の労務対価部分を認定し、その金額を基礎として損害算定する。
- 経営者の得る報酬(給与)の中には、労働の対価とともに、企業経営者として受領する利益の配当的部分があり、この部分は休業により失われないので、損害算定の基礎から除外するという考え方である。
基準の解説
労務提供部分と利益配当部分
役員報酬には労務提供部分と利益配当部分があります。両者は個別事案ごとに実質的に判断します。労務提供部分が会社役員の休業損害の対象です。
- 労務提供部分
労務提供部分とは、実際に役員が働いたことの対価と評価できる部分です。たとえば、従業員ゼロの建築業の株式会社の代表取締役が毎日現場で作業する場合、役員報酬は労務提供部分と判断されやすいでしょう。 - 利益配当部分
利益配当部分とは、会社の利益の一部を役員として受領していると評価できる部分です。たとえば、社長が実務に関わらない従業員100人の建設会社の代表取締役が年間1億円の役員報酬を受領している場合、大部分は利益配当部分と判断されやすいでしょう。
労務提供部分と利益配当部分の判断基準
では、労務提供部分と利益配当部分はどのように判断するでしょうか?
両者を区別する一律の基準はありません。次のような事情を総合考慮して判断することが多いです。
- ①会社の規模
- ②会社の利益状況
- ③役員の地位
- ④役員の職務内容
- ⑤役員の年齢
- ⑥役員報酬の金額
- ⑦他の役員や従業員との差
- ⑧事故後の役員報酬額の推移
- ⑨類似法人の役員報酬の支給状況
①会社の規模
上場企業の代表取締役
上場企業の代表取締役の場合、全額が仕事の対価であることが多いです。そのため、全額が労務提供部分と判断されやすいでしょう。
小規模なオーナー企業
小規模なオーナー企業の場合、個別事案によります。個別の報酬額を踏まえて労務提供部分と利益配当部分を判断することになるでしょう。
②会社の利益状況
会社の業績が良いとき
会社の業績が良いときは、役員報酬が相当高額でも労務提供部分が多いと判断されやすいでしょう。会社の業績が良いときに役員報酬を高額にするのは自然です。
会社の業績が悪いとき
会社の業績が悪いときは、役員報酬が相当高額だとすると、労務提供部分が少ないと判断されやすいでしょう。会社の業績が悪いのに役員報酬が高額というのは不自然です。会社の利益を役員に移動していると判断されやすいでしょう。
③役員の地位
名目的な取締役のとき
業務に関与しない名目的な取締役のとき、役員報酬は利益配当部分と判断されやすいでしょう。
実質的な取締役のとき
業務に関与している実質的な取締役のとき、役員報酬は労務提供部分と判断されやすいでしょう。
④役員の職務内容
実質的に従業員と報酬や職務内容が変わらないとき
実質的に他の従業員と報酬や職務内容が変わらない場合、役員報酬は労務提供部分と判断されやすいでしょう。
他の従業員と同じ仕事でも報酬が高いとき
他の従業員と同じ仕事をしているものの役員報酬額が高い場合、役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。
⑤役員の年齢
若年の2代目の取締役のとき
若年の2代目の取締役が高額の役員報酬を受領している場合、役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。
創業者取締役のとき
創業者の代表取締役が年齢相応の役員報酬を受領している場合、役員報酬は労務提供部分が多いと判断されやすいでしょう。
⑥役員報酬の金額
金額が社会一般常識からして高いとき
社会一般常識からして高い場合、役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。平均賃金などの統計資料を参考にすることもあります。
金額が社会一般常識からして相当なとき
社会一般常識からして相当な場合、役員報酬は労務提供部分が多いと判断されやすいでしょう。
⑦他の役員や従業員との差
業務内容が同じだが特定の取締役の役員報酬が高いとき
業務内容は同じであるものの特定の取締役だけ役員報酬が高い場合、報酬が高い取締役の役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。
業務内容が同じで報酬も同じの取締役が複数いるとき
業務内容が同じで報酬の取締役が複数いる場合、役員報酬は労務提供部分が多いと判断されやすいでしょう。
⑧事故後の役員報酬額の推移
事故後に役員報酬額が減っているとき
事故後に役員報酬額が減っている場合、減った役員報酬は労務対価部分が多いと判断されやすいでしょう。
事故後に役員報酬額の変更がないとき
事故後に役員報酬額が減っていない場合、役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。
⑨類似法人の役員報酬の支給状況
類似法人より高額の役員報酬のとき
同業種の類似法人より役員報酬が高額の場合、役員報酬は利益配当部分が多いと判断されやすいでしょう。
類似法人と同程度の役員報酬のとき
同業種の類似法人と同程度の役員報酬の場合、役員報酬は労務対価部分が多いと判断されやすいでしょう。
まとめ:会社役員の休業損害
役員報酬には労務提供部分と利益配当部分があります。両者は個別の事案ごとに実質的に判断します。労務提供部分が会社役員の休業損害の対象です。
労務提供部分と利益配当部分を区別する一律の基準はありません。次のような事情を総合考慮して判断することが多いです。
- ①会社の規模
- ②会社の利益状況
- ③役員の地位
- ④役員の職務内容
- ⑤役員の年齢
- ⑥役員報酬の金額
- ⑦他の役員や従業員との差
- ⑧事故後の役員報酬額の推移
- ⑨類似法人の役員報酬の支給状況
(監修者 弁護士 大澤 一郎)