監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 大澤 一郎
謹んでお悔やみ申し上げます。
突然の出来事に大きな悲しみ、無念さや、その他言葉では表せない複雑な思いを抱かれていることと思います。
死亡事故では自分たちの想いを警察にしっかり伝えることが必要です。また、保険会社と示談交渉を開始すると加害者の処罰が軽くなることがありますので要注意です。
この記事では遺族の方に向けて、保険会社対応や警察対応で失敗しない方法を交通事故に詳しい弁護士がわかりやすくお伝えします。
なお、死亡事故は保険会社や警察対応が複雑です。弁護士へのご相談をお勧めします。
―――― 目次 ――――
死亡事故の損害賠償
死亡事故のご遺族の主な補償は次のとおりです。
治療の甲斐なく亡くなられた場合ですと、治療費、付添費、休業損害の補償が考えられます。
加害者の保険会社が適正に支払えばよいですが、残念ながら保険会社の提示額は低額のことが多いです。
損害賠償額の算定基準は3種類あります。最も高額である裁判基準で保険会社が最初から提案してくることはまずありません。
死亡事故の刑事手続
死亡事故の加害者は刑事責任を負うことが多いです。警察や検察が捜査し、起訴・不起訴の処分を決めます。起訴となったときは刑事責任の有無及び程度を裁判所が判断します。
参考情報:犯罪被害者の方々へ(法務省)
お読みいただきたいQ&A
- Q保険会社と示談交渉を始めてもよいですか?
- Aよいです。ただし保険会社と示談交渉をしていることが刑事事件で加害者に有利な事情となることが多いです。
【解説】
保険会社と損害賠償についての示談交渉を始める時期は、事故後すぐでも事故から一定期間が経過してからでも大丈夫です。
もっとも、示談交渉をしていることは加害者の刑事事件で加害者に有利な事情となることが多いです。加害者にできるだけ重い処罰を求める場合、示談交渉は刑事事件の判決確定後がよいでしょう。
同じく①自賠責保険の受領や②示談の成立も加害者に有利な事情になります。 - Q葬儀に加害者がきたいと言っています。どうすればよいですか?
- A応じてもよいですし、拒否しても構いません。ただし、加害者が葬儀に参列したことが刑事事件の中で加害者に有利な事情となることがあります。
【解説】
葬儀に加害者が参列したいという希望に応じるか否かは、ご遺族のお気持ち次第です。葬儀に参列した場合、刑事事件で加害者に有利な事情となることがあります。
香典を受け取った場合も、刑事事件で加害者に有利な事情となることがあります。 - Q保険会社と話をしたくありません。どうすればよいですか?
- A弁護士に依頼をすれば保険会社は弁護士に連絡します。ご遺族が保険会社と話す必要はなくなります。
【解説】
複雑な思いを抱かれる中、相手保険会社の連絡に対応することは相当なご負担になります。弁護士に依頼すると、相手保険会社は弁護士に連絡をし、直接ご遺族ご本人へ連絡しなくなります。遺族の皆様はご負担から解放されます。 - Q加害者が逮捕されていません。おかしくないですか?
- A加害者が逮捕されないことも珍しくありません。
【解説】
交通事故で怪我をさせたり死なせたりした場合、加害者は過失運転致死傷罪の被疑者として捜査の対象となります。危険運転致死傷罪や道路交通法違反が問題になることもあります。
捜査の対象となった被疑者が逮捕される可能性はあります。逮捕は被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するための制度です。逮捕するためには逃亡や証拠隠滅のおそれが必要です。死亡事故で逮捕されやすい場合、逮捕されにくい場合は次の通りです。
逮捕されやすい場合
- ①前科前歴があり刑務所に行くことが見込まれること
- ②事故後現場から逃走したこと
- ③酒気帯び運転
- ④無免許運転
逮捕されにくい場合
- ①事実を認め真剣に反省していること
- ②自動車任意保険に加入していて被害弁償がなされることが見込まれること
- ③前科前歴がないこと
- ④安定した職に就いていること
- ⑤家族と同居していること
- Q加害者が警察から釈放されました。おかしくないですか?
- A逮捕された加害者が釈放されることも珍しくありません。
【解説】
逮捕の最長の拘束期間は72時間です。
72時間を超えて拘束するためには勾留が必要です。勾留も被疑者による逃亡や証拠隠滅を防止するための制度です。
事故現場で逮捕されたものの、逃亡や証拠隠滅のおそれがないときは、勾留に至らず釈放されることも珍しくありません。
ただし、当然のことですが釈放は無罪放免を意味しません。一方①前科前歴があって実刑が見込まれること、②事故後現場から逃走したこと、③酒気帯び運転や無免許運転など悪質性が高いという事情がある場合、逮捕に引き続き勾留される可能性は高くなります。
- Q加害者の刑事処分を重くしたいです。どうすればよいですか?
- A刑事手続で加害者に有利になる事情を理解した上で行動しましょう。
【解説】
次のような事情が刑事処分の重さを左右します。- 計画性の有無
- 動機
- 被害の程度
- 被害感情、示談成立、被害者が許しているか
- 加害者の反省
- 刑事処分が家族に与える影響
- 社会的制裁を受けたか(解雇、長期の勾留等)
- 前科前歴の有無程度、再犯予防のための方策
そして刑事処分を重くしたいと願う被害者側ができることは以下の通りです。
- 捜査官に重い刑事処分を望むと伝えて調書に載せてもらう。
- 被害が一部でも回復したと受け取られるような行動をしない。
- 示談交渉に着手しない。
- 被害者側が許したと誤解される可能性のある行動をしない。
- 被害者参加の手続にて心情を裁判所で述べる。
- Q加害者の刑事処分がされませんでした。どうすればよいですか?
- A検察審査会に審査申立ができます。
【解説】
検察官が起訴しなかった場合には刑事処分がされません。
検察官が起訴しなかった場合、ご遺族は検察審査会に申立ができます。検察審査会は、一般の国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員で構成します。検察官の不起訴処分に対して、検察審査会は「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」の議決をします。
「起訴相当」「不起訴不当」の場合、検察官は再度捜査を行って起訴するか起訴しないかを決めます。「起訴相当」の議決後に検察官がまた不起訴処分をしたときは、検察審査会はもう一度審査をします。「起訴すべき」「起訴すべきとはいえない」のいずれかを議決します。
「起訴すべき」議決の場合、加害者は起訴されます。
この場合には検察官ではなく、裁判所が指定した弁護士が起訴します。
参考情報:検察審査会(最高裁判所) - Q相続手続はどうすればよいですか?
- A財産や負債を相続する手続を行います。また、交通事故の損害賠償請求をご遺族が行います。故人に負債が多いときは要注意です。
【解説】
交通事故の損害賠償請求に着手した時点で、個人の負債を相続人が全て承継することとされてしまいます。故人の負債が多額の場合には相続放棄も選択肢の1つです。 - Q当面の生活費がありません。どうすればよいですか?
- A自賠責保険に仮渡金の請求を行う方法があります。
【解説】
死亡事故の場合、当面の生活費の問題が出てくることがあります。一方、適正な賠償のためには示談交渉をしたり裁判をしたりするなど、通常は相応の時間を要します。当面のお金が必要な場合には仮渡金制度を利用することができます。仮渡金制度は速やかに自賠責保険から支払がある制度です。死亡事故の仮渡金は290万円です。仮渡金は損害賠償を一部先に受領した扱いとなります。
- Q葬儀費用はどのくらい認められますか?
- A自賠責保険基準では100万円、裁判基準では150万円です。
【解説】
自賠責保険の基準では葬儀費用は100万円です。
裁判基準では原則葬儀費用は150万円です。ただし実際の葬儀費用が150万円より低い場合には実際の支出額となります。実際の葬儀費用の額が110万円だった場合には支払われる金額は110万円となります。 - Q慰謝料はどのくらい認められますか?
- A自賠責保険基準と裁判基準で異なります。家族の状況によっても金額が変わってきます。
【解説】
自賠責基準
400万円に以下の金額を足した金額です。- 遺族が1名 550万円
- 遺族が2名 650万円
- 遺族が3名以上 750万円
- 被害者に扶養されている者がいるとき さらに200万円を加算
例えば、遺族が1人の場合の慰謝料は950万円(400万+550万)となります。
※「遺族」とは、被害者の父母、配偶者、子を指します裁判基準
- 被害者が一家の支柱である場合 2800万円
- 被害者が母親、配偶者の場合 2500万円
- その他の被害者 2000万円~2500万円
※具体的な事情により金額は増減します。
- Q逸失利益はどのくらい認められますか?
- A基礎収入額や年齢、職業により計算が異なってきます。労働分と年金分の逸失利益があります。
【解説】
将来得られるはずだった収入の補償が逸失利益です。
死亡事故の場合には労働分と年金分の逸失利益があります。労働分の逸失利益
基礎収入×就労可能年数に対応するライプニッツ係数×(1-生活費控除率)で計算します。- 基礎収入とは年収です。
- 就労可能年数とは「あと何年働けるか」です。実際には将来もらえるはずだった収入を一括払で今もらうため、ライプニッツ係数という特殊な数字を使います。
- 生活費控除率とは、お亡くなりになると今後の生活費が発生しないため、今後の生活費分を補償から引くという意味です。
年金分の逸失利益
労働分の逸失利益と同じ計算式です。 - Q自賠責保険に被害者請求した方がよいですか?それとも加害者の任意保険会社と交渉した方がよいですか?
- A事案によってどちらがよいか決めましょう。
【解説】
死亡事故の損害賠償請求では2つの方法があります。①被害者請求と②加害者任意保険会社との交渉です。被害者請求とは被害者自らで加害者の自賠責保険会社に請求する方法です。死亡事故で被害者請求が望ましい場合
- 示談成立や判決前に自賠責保険分を先に受け取りたい場合
- 被害者の過失が大きい場合
自賠責保険では被害者の過失が大きくても補償が減額となりにくいです。自賠責保険の過失割合と減額割合の関係 被害者の過失割合 減額割合 後遺障害・死亡 傷害 70%未満 減額なし 70%以上80%未満 20%減額 20%減額 80%以上90%未満 30%減額 90%以上100%未満 50%減額
死亡事故で加害者任意保険会社との交渉が望ましい場合
まとめ
死亡事故のご遺族は①損害賠償請求の対応、②刑事手続の対応、③相続手続きの対応等が必要です。
警察には自分たちの想いをしっかり伝えましょう。また、保険会社と示談交渉を開始すると加害者の処罰が軽くなることがありますので要注意です。
負担軽減や賠償額の増額につながるかもしれません。一度は弁護士への相談をお勧めします。
(監修者 弁護士 大澤 一郎)