高次脳機能障害の失行の症状
監修者:よつば総合法律事務所
代表弁護士 大澤 一郎
- Q交通事故による高次脳機能障害の失行とは何ですか?
- A失行とは、パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が失われる障害です。交通事故の高次脳機能障害で失行となると、1~14級の後遺障害の可能性があります。
―――― 目次 ――――
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは脳損傷による認知障害全般です。様々な認知障害だけではなく、行動障害や人格変化を伴うことが多いです。症状には記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。
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失行とは
失行とは、パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が失われる障害です。
交通事故などが原因で高次脳機能障害になると、体に麻痺はなく、指示されたことを理解しているにも関わらず、以前はできていた行動がうまくできないという症状が現れることがあります。
たとえば、歩くことは誰でも無意識に行えます。しかし、歩行失行を発症するとうまく歩けません。
その他、口や顔の動きのみに障害が現れる「口顔面失行」、手足の動きがうまくできない「肢節(しせつ)失行」、着替えがうまくできない「着衣失行」などがあります。
着衣失行は、手足の動きに問題はないのに服の上下や表裏の区別ができず、ボタンをかけることができないなどの症状が現れます。
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失行の種類
失行は次の3つに分類するのが一般的です。
- 観念運動性失行
- 観念性失行
- 肢節運動失行
観念運動性失行
観念運動性失行になると、ある動作をしようとしてもできない、指示された動作ができないなどの症状が現れます。
たとえば、「ピースサインを出してください」と言ってもできないなどの症状が観念運動性失行です。
脳の損傷部位は、左頭頂葉の縁上回(えんじょうかい)領域などが多いです。
観念性失行
観念性失行になると、物の扱いがうまくできなくなります。
たとえば、はさみの使い方がわからない、テレビのリモコンが使えないなど、歯ブラシで歯を磨こうと思っても歯ブラシの使い方がわかならないなどです。日常生活で当たり前のように使っていた生活道具をうまく扱えません。生活に支障が出ます。
脳の損傷部位は、左半球または両側頭頂葉後方領域などが多いです。
肢節運動失行
肢節運動失行になると、熟練運動や巧緻運動ができなくなります。
たとえば、机の上の硬貨をつまみあげることができなくなります。
脳の損傷部位は、中心前回(ぜんかい)と中心後回(こうかい)などが多いです。
失行の検査
観念性失行と観念運動性失行の検査
観念性失行と観念運動性失行では次のような検査をします。
- 指示した動作がうまくできるかを検査します。例えば、バイバイをするなどです。
- 道具を持たずに、ハンマーでたたくなどの動作などをしてもらいます。
- 実際に道具を持ってもらい、道具を使えるかどうか検査します。
肢節運動失行の検査
肢節運動失行では次のような検査をします。
- ポケットに手を入れる
- ボタンをかける
- 机の上の硬貨とつまむ
予備検査として、筋力や握力の確認を行い麻痺がないことを確認します。筋力や握力に問題がないにもかかわらず動作がうまくできない場合、肢節運動失行の可能性があります。
失行の高次脳機能障害の後遺障害等級
では、交通事故で失行の高次脳機能障害となったとき、どのような後遺障害が認定されるでしょうか。
高次脳機能障害の後遺障害は1~14級まであります。画像所見の有無や生活への支障の程度などを考慮して後遺障害等級が決まります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
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まとめ:高次脳機能障害の失行
失行とは、パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が失われる障害です。交通事故の高次脳機能障害で失行となると、1~14級の後遺障害の可能性があります。
(監修者 弁護士 大澤 一郎)