高次脳機能障害と成年後見申立の必要性
監修者:よつば総合法律事務所
代表弁護士 大澤 一郎
- Q高次脳機能障害のときは成年後見申立が必要ですか?
- A後遺障害1級のときは成年後見申立が必要なときが多いです。後遺障害4級以下のときは成年後見申立が必要なときは少ないです。後遺障害2~3級のときは個別事案によります。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは脳損傷による認知障害全般です。様々な認知障害だけではなく、行動障害や人格変化を伴うことが多いです。症状には記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。
交通事故で高次脳機能障害と認定されるには①頭部外傷を示す傷病名、②意識障害、③画像所見が原則必要です。後遺障害は1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級、14級の可能性があります。
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等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
成年後見とは
成年後見とは認知症や知的障害などにより判断する能力が欠けているのが通常の状態の方について、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」ときに制度が利用できます。
成年後見制度を利用すると成年後見人を裁判所が選任します。成年後見人は被害者本人に代わって契約などをできます。交通事故の保険金請求や示談もできます。
成年後見人を選任するとき、裁判所は次の2つのいずれかを選任します。
- ①家族
- ②弁護士や司法書士などの第三者専門家
交通事故の保険金請求や賠償交渉があるとき、裁判所は専門家の成年後見人を選任することが多いです。
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高次脳機能障害では成年後見が必要か?
では高次脳機能障害では成年後見が必要でしょうか?
成年後見制度を利用するかは原則被害者や家族の自由です。ただし、成年後見制度を利用しないと保険金請求や示談交渉ができないと保険会社が指摘することがあります。保険会社の指摘があると成年後見申立が必要となることが多いです。
過去の経験からすると、後遺障害1級のときは成年後見人が必要なときが多いです。後遺障害4級以下のときは成年後見人が必要なときは少ないです。後遺障害2~3級のときは個別事案によります。
等級 | 成年後見の必要性 |
---|---|
1級 | ×必要なことが多い |
2~3級 | △個別事案による |
4級以下 | 〇必要なことは少ない |
成年後見以外の補佐制度や補助制度
制度 | 対象 |
---|---|
成年後見 | 判断能力が欠けているのが通常 |
補佐 | 判断能力が著しく不十分 |
補助 | 判断能力が不十分 |
被害者の状況により3つの中から選べます。経験上は成年後見制度の利用が多いです。
成年後見制度利用のデメリット
では成年後見制度を利用するデメリットは何でしょうか?
成年後見制度の利用には次のようなデメリットがあります。
- ①金銭管理を厳密に行う必要があること
- ②家族以外の専門家を裁判所が選任する可能性があること
①金銭管理を厳密に行う必要があること
年に1回、1円単位で管理状況を裁判所に報告する必要があります。また、支出は本人のための支出のみ可能です。家族のための支出は原則できません。
②家族以外の専門家を裁判所が選任する可能性があること
家族以外の専門家が成年後見人になると専門家の費用が発生します。また専門家との定期的なやりとりが必要になり面倒です。
成年後見の費用も賠償対象
交通事故により成年後見が必要な状況となったとき、成年後見関連費用も賠償対象です。たとえば、次のような費用が賠償対象です。
- 本人の能力を証明するための鑑定費用
- 成年後見申立のための弁護士費用
- 成年後見申立のために必要な印紙代や切手代などの実費
- 成年後見人の報酬
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まとめ:高次脳機能障害と成年後見申立の必要性
高次脳機能障害となった場合、次のとおり成年後見申立が必要なことがあります。
等級 | 成年後見の必要性 |
---|---|
1級 | ×必要なことが多い |
2~3級 | △個別事案による |
4級以下 | 〇必要なことは少ない |
(監修者 弁護士 大澤 一郎)