胎児の損害賠償
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 松本 達也
- Q胎児の損害賠償請求はできますか?
- A無事胎児が生まれ、事故を原因とする後遺障害が残ったときは、胎児本人の損害賠償を請求できます。
他方、流産や死産、中絶になったときは、胎児本人の損害賠償は請求できません。ただし、事故を原因とする流産等は母親の慰謝料の増額が認められやすいです。
―――― 目次 ――――
胎児とは
胎児とは、母のお腹の中にいて、まだ生まれ出ていない子供です。
胎児が損害賠償請求できるとき
では、胎児が損害賠償請求できるのはどのようなときでしょうか?
無事胎児が生まれ、事故を原因とする後遺障害が残ったときは、胎児本人の損害賠償を請求できます。他方、流産や死産、中絶になったときは、胎児本人の損害賠償は請求できません。
民法第721条には「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす」という規定があります。
無事胎児が生まれたときは、民法第721条の規定に基づき損害賠償を請求できます。他方、流産等のときは、実際に生まれなかったため、損害賠償は請求できません。
「生まれたものとみなす」のは実際に生まれたことが前提です。生まれなかったときは「生まれたものとみなす」の民法第721条の規定は適用できません。
母親の慰謝料増額
では、流産や死産、中絶のときは何も請求できないのでしょうか?
流産等のときは、母親の慰謝料の増額を請求できます。経験上、事故を原因とする流産等は慰謝料の増額が認められやすいです。
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母親の慰謝料増額の具体例
それでは、母親の慰謝料増額の具体例をみていきましょう。
出産予定日4日前の事故で慰謝料800万円の事例
- 出産予定日は4日後
- 事故により死産
- 母親自身の傷害慰謝料とは別に800万円の慰謝料が相当
(高松高等裁判所平成4年9月17日判決)
事故に伴う治療による中絶で慰謝料150万円の事例
- 事故に伴う治療により妊娠中絶
- 治療は通院日数3日、通院期間1カ月
- 妊娠中絶の事実も含めて通院慰謝料150万円が相当
- 中絶費用10万円、中絶診断書費用15,000円も別途損害の対象
(静岡地方裁判所沼津支部平成7年10月27日判決)
事故の際の腹部への圧力による胎児の死亡で慰謝料150万円の事例
- 事故の際の腹部への圧力により胎児が死亡
- 胎児の分の慰謝料として150万円が相当
(大阪地方裁判所平成8年5月31日判決)
事故が原因である流産等を証明する方法
では、事故を原因とする流産等であることをどのように証明するのでしょうか?
医師の診断書で証明するのが一般的です。次のような記載があると事故を原因とする流産等と証明しやすくなります。
- 事故が原因で流産した
- 事故が原因の流産の可能性がある
- 事故により○○となり、結果的に流産した
- 事故と流産の関係は否定できない
まとめ:胎児の損害賠償
胎児が無事生まれ、事故を原因とする後遺障害が残ったときは、胎児本人の損害賠償を請求できます。
他方、流産や死産、中絶になったときは、胎児本人の損害賠償は請求できません。ただし、事故を原因とする流産等は母親の慰謝料の増額が認められやすいです。
(監修者 弁護士 松本 達也)