借金がある被害者の死亡事故
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 佐藤 寿康
- Q父が交通事故で死亡し、相続人は息子の私だけです。父は多額の借金があります。どうすればよいですか?
- A借金がある被害者の死亡事故の場合、遺族は次の対応が望ましいでしょう。
①資産と負債を早急に調査する。
②相続放棄するか判断する。相続放棄は死亡から3カ月以内に裁判所に申立する。
③3カ月以内に相続放棄の判断が難しい場合、期間伸長を裁判所に申立する。延長期間が終わるまでに相続放棄するか判断する。相続放棄をする場合、裁判所に申立する。
④判断が微妙なときは、限定承認の裁判所への申立を検討する。
⑤相続放棄するか判断するまでは、損害賠償の交渉は開始しない。
―――― 目次 ――――
交通事故による死亡と相続
死亡事故の場合、故人の相続手続きを行います。相続手続きは故人の資産と負債を全部承継するのが原則です。
交通事故による損害賠償請求権も故人の資産です。そのため、故人の損害賠償請求権を家族は原則相続します。
相続の3つの選択肢
では、相続手続きではどのような選択肢があるでしょうか?
相続手続きは次の3つの選択肢があります。
- ①単純承認
- ②相続放棄
- ③限定承認
単純承認
単純承認とは、家族が故人の資産と負債を全部受け継ぐ方法です。
単純承認は特別の手続きは不要です。故人の損害賠償請求権を他の資産同様に家族が相続できます。
死亡事故の賠償交渉を開始したりすると、単純承認と扱われることがあります。単純承認したあとは、相続放棄や限定承認はできません。
相続放棄
相続放棄とは、相続人が故人の資産と負債を一切受け継がない方法です。
相続放棄は裁判所への申立が必要です。相続放棄をすると、故人の損害賠償請求権を相続人は相続できません。
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限定承認
限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の範囲内で故人の負債を受け継ぐ方法です。
限定承認は裁判所への申立が必要です。限定承認をすると、故人の損害賠償請求権を相続人は相続できます。
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相続放棄や限定承認の期間制限を伸ばす方法
相続放棄や限定承認は期間制限があります。故人がお亡くなりになってから3カ月以内が原則です。
しかし、3カ月以内では相続放棄や限定承認の判断が難しいことがあります。そのため、相続放棄や限定承認の期間制限を伸ばすことができます。
期間制限を伸ばすには裁判所への申立が必要です。
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借金があるときの現実的な対応方法
故人に借金があるとき、現実的にはどのような対応が望ましいでしょうか?
故人に借金がある死亡事故は、次の対応が望ましいです。
- ①資産と負債を早急に調査する。
- ②相続放棄するか判断する。相続放棄は死亡から3カ月以内に裁判所に申立する。
- ③3カ月以内に相続放棄の判断が難しい場合、期間伸長を裁判所に申立する。延長期間が終わるまでに相続放棄するか判断する。相続放棄をする場合、裁判所に申立する。
- ④判断が微妙なときは、限定承認の裁判所への申立を検討する。
- ⑤相続放棄するか判断するまでは、損害賠償の交渉は開始しない。
遺族固有の慰謝料の請求は可能
では、相続放棄をしたときは交通事故の賠償金は一切受領できないのでしょうか?
遺族固有の慰謝料を請求できる可能性があります。
遺族固有の慰謝料とは、故人の父母や配偶者、子などの独自の権利としての慰謝料です。
被害者との間にこれらの人と実質的に同視することができる身分関係が存在すれば、その人も請求することができます。
たとえば、次のような人も遺族固有の慰謝料を請求できる可能性があります。
- 内縁の配偶者
- 祖父母
- 孫
- 兄弟姉妹
請求の可否及び金額は個別事案ごとの判断となります。
まとめ:借金がある被害者の死亡事故
借金がある被害者の死亡事故の場合、遺族は次の対応が望ましいでしょう。
- ①資産と負債を早急に調査する。
- ②相続放棄するか判断する。相続放棄は死亡から3カ月以内に裁判所に申立する。
- ③3カ月以内に相続放棄の判断が難しい場合、期間伸長を裁判所に申立する。延長期間が終わるまでに相続放棄するか判断する。相続放棄をする場合、裁判所に申立する。
- ④判断が微妙なときは、限定承認の裁判所への申立を検討する。
- ⑤相続放棄するか判断するまでは、損害賠償の交渉は開始しない。
(監修者 弁護士 佐藤 寿康)