労災補償後に相手に請求する計算方法(過失がある場合)
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 佐藤 寿康
- Q労災から補償を受けた後に相手に請求をします。自分に過失がある場合、どのように計算しますか?
- A労災から受領した金額を控除して請求します。ただし、全額控除しなくてもよい場合がありますので注意しましょう。
―――― 目次 ――――
労災とは
労災とは、労働者が業務中や通勤中に事故が発生し、けがや病気が生じる事故です。
労災事故は労災保険が使えます。
関連情報
交通事故における損益相殺とは
交通事故における損益相殺とは、被害者が事故を原因として一定の利益を受けたときは、その利益を損害賠償額から控除するルールです。
業務中や通勤中に交通事故にあった場合、労災保険から治療費や休業補償等を受領できます。被害者は事故を原因として一定の補償を受けたこととなります。
そのため、労災保険から先行して受領し、さらに加害者へ全額請求すると損害の二重取りとなります。そこで、加害者に請求する請求額を減らして請求することとなります。この減額のルールが損益相殺です。
費目拘束とは
費目拘束とは、公的保険給付を受けたときの損益相殺的な調整は、保険給付の目的・性質に応じて、同一性のある損害の限度で控除されるという制度です。
費目拘束は複雑ですので具体例で検討しましょう。
たとえば、治療費150万円、休業損害80万円、慰謝料200万円、被害者の過合40%とします。
そして、治療費150万円と休業損害40万円を労災保険から受領したとします。
治療費の扱い
治療費は150万円、被害者の過失は40%です。加害者に賠償請求できる治療費は本来90万円です。
被害者は既に150万円を労災保険から受領しています。しかし、差額の60万円を他の賠償金の項目から差し引くことができません。たとえば、慰謝料を60万円減らすというような扱いはできません。
休業損害の扱い
休業損害は80万円、被害者の過失は40%です。加害者に賠償請求できる休業損害は本来48万円です。
被害者は既に40万円を労災保険から受領しています。そのため、残りの8万円を加害者に請求できます。
慰謝料の扱い
慰謝料は200万円、被害者の過失は40%です。加害者に賠償請求できる慰謝料は120万円です。
労災保険では慰謝料の支払はありません。そのため、120万円を加害者に請求できます。
費目拘束があるときの支払総額
費目拘束があるときの支払総額は次の金額です。合計318万円受領できます。
- 治療費 150万円
- 休業損害 48万円
- 慰謝料 120万円
- 合計 318万
費目拘束がないときの支払総額
では、仮に費目拘束がないと支払総額はいくらでしょうか?
治療費150万円、休業損害80万円、慰謝料200万円、被害者の過合40%ですので、258万円です。
費目拘束があると318万円、費目拘束がないと258万円の受領額です。
費目拘束があると60万円多く受領できます。
費目拘束の計算は複雑です。弁護士や裁判官も間違うことがあります。交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。
まとめ:労災補償後に相手に請求する計算方法(過失がある場合)
自らにも過失がある事案で労災補償後に相手に請求するときは、労災から受領した金額を控除して請求します。ただし、全額控除しなくてもよい場合がありますので注意しましょう。
(監修者 弁護士 佐藤 寿康)