交通事故の刑事事件|示談はどう影響しますか?
最終更新日:2025年04月17日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q示談すると、交通事故の加害者の刑事事件にどのような影響がありますか?
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示談が成立すると、加害者にとって刑事手続きで有利に働くことがあります。被害者が謝罪を受け入れ、損害賠償が完了していれば、情状酌量の対象となり、不起訴や刑の軽減につながる可能性が高まります。
もっとも、示談すると刑事事件にどう影響するかは個別の状況によって異なります。悩んだら、交通事故に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。

目次

示談とは
刑事事件における示談とは、加害者が被害者に対して金銭を支払うなどして、その代わりに被害者が「加害者の処罰を求めない」などの合意をすることです。
示談が成立すると、加害者にとって有利に働くことが多く、不起訴になったり、刑が軽くなったりする可能性があります。
一方で、加害者が被害者に損害賠償を支払ったものの、被害者が処罰の軽減などの意向を示さない場合は「被害弁償」と言います。
被害弁償は示談ほどの効果はありませんが、加害者が誠意を示した証拠として扱われ、刑事処分を軽減する要素の1つとなることもあります。
交通事故の3つの責任
交通事故を起こすと、加害者は「民事上の責任」「刑事上の責任」「行政上の責任」の3つを負います。これらはそれぞれ異なる手続きで、示談が影響を与える範囲も異なります。
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民事上の責任
民事上の責任とは、事故で生じた損害を賠償する義務のことです。加害者は、被害者の治療費、休業損害、慰謝料などを支払う必要があります。
民事上の責任では「加害者が被害者に損害を補償すること」が主な目的となります。そのため民事上の示談が成立する際には、被害者は賠償金を受け取り、加害者に対して新たな請求をしないことを約束するケースが一般的です。示談をすることで、裁判を避け、早期に問題を解決することができます。
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刑事上の責任
刑事上の責任とは、交通事故によって人を死傷させた場合に科される罰則のことです。警察の捜査を受けた後、検察が起訴するかどうかを判断し、起訴されると刑事裁判で有罪・無罪が決まります。有罪となった場合、罰金刑や懲役刑を受ける可能性があります。
刑事事件において示談が成立すると、加害者にとって有利に働くことがあります。被害者が処罰を望まない意思を示すことで、検察が不起訴と判断することもあります。また、起訴されても示談が成立していれば、執行猶予がつくなど、刑が軽減される可能性があります。
被害者が一定の賠償金を受け取り、「新たな請求をしないこと」「加害者の処罰を求めないこと」を合意する場合、民事上の示談・刑事上の示談両方の効力を有します。
ただし、示談をしてもすべてのケースで刑事責任が軽減されるわけではありません。飲酒運転や死亡事故など、悪質なケースでは示談が成立しても実刑判決を受けることがあります。
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行政上の責任
行政上の責任とは、交通事故を起こしたことによる運転免許に関する処分のことです。事故の内容に応じて、免許の違反点数が加算され、免許停止や免許取消の処分を受ける可能性があります。
軽微な事故であれば、講習を受けることで免許停止期間を短縮できることもありますが、飲酒運転やひき逃げなどの重大事故では、免許が取り消されるケースが多く、再取得が必要になることもあります。
示談は刑事処分や民事上の賠償には影響を与えることがありますが、行政処分には通常は影響しません。たとえば、被害者と示談が成立し、刑事事件が不起訴になったとしても、免許停止や取消処分は変わりません。そのため、示談をしたからといってすべての責任がなくなるわけではありません。
交通事故の刑事責任(犯罪)の種類
交通事故を起こした加害者は、事故の内容によってさまざまな刑事責任を問われる可能性があります。主な刑事責任の種類は、次の通りです。
犯罪の種類 | 罰則 |
---|---|
過失運転致死傷罪 | 7年以下の懲役もしくは禁錮 または、100万円以下の罰金 |
危険運転致死傷罪 | 負傷:15年以下の懲役 死亡:1年以上20年以下の懲役 (罰金刑なし) |
運転過失建造物損壊罪 | 6か月以下の禁錮 または、10万円以下の罰金 |
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過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪とは、運転中の注意不足が原因で人をけがさせたり死亡させたりした場合に適用される罪です。前方不注意やわき見運転、一時停止無視、ハンドル操作ミスなどが典型的な例です。
この罪の罰則は「7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金」と定められています。
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危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、法律で特に危険とされる運転行為を行い、事故を起こした場合に問われる罪です。たとえば、飲酒や薬物の影響で正常に運転できない状態での運転、極端なスピード超過、あおり運転、信号無視などが該当します。
この罪の罰則は非常に重く、人をけがさせた場合は「15年以下の懲役」、死亡させた場合は「1年以上20年以下の懲役」となります。罰金刑はなく、必ず懲役刑が科されるため、過失運転よりも厳しい処分が下されます。
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運転過失建造物損壊罪
過失建造物損壊罪は、運転者の不注意や重大な過失によって、建物や壁、ガードレールなどを壊してしまった場合に適用される罪です。たとえば、スピードの出しすぎで住宅の塀に衝突した場合や、駐車場の出入り時に店舗のガラスを破損させた場合などが該当します。
この罪の罰則は「6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金」と比較的軽めです。
示談交渉の流れ
交通事故の被害にあい、心身ともに大きなダメージを受けた方にとって、示談交渉は加害者の誠意を確かめる大切な機会です。謝罪や損害賠償を求めることは、被害者が少しでも前向きな気持ちを取り戻すための大切なプロセスでもあります。
しかし、示談交渉は簡単ではありません。加害者側が十分な謝罪をしない、損害賠償の金額に納得がいかないといったケースもあります。また、交渉の進め方を間違えると、不利な条件で示談が成立してしまうこともあるため、慎重に対応する必要があります。
示談は、次の流れで進みます。- 加害者側からの連絡
- 示談条件の交渉
- 示談書の作成
- 示談金の支払い
- 示談書を警察・検察や裁判所に提出
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加害者側からの連絡を受ける
示談交渉は、加害者またはその弁護士からのコンタクトが最初のステップです。通常、加害者側の弁護士が警察や検察を通じて被害者の連絡先を確認し、示談の意思を尋ねる形で始まります。
示談を受けるかどうかは被害者の自由なので、加害者との話し合いを拒否することもできます。
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示談条件を話し合う
示談の可能性がある場合には、示談条件について交渉を行います。示談金の金額や謝罪の方法、示談の成立時期などについて話し合います。
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示談書の作成と締結
示談の条件がまとまったら、示談書を作成します。示談書には、示談金の額や支払い方法、示談の成立後にお互いに追加の請求をしないこと(清算条項)などが記載されます。
示談書の内容は、一度締結すると変更が難しいため、弁護士と相談しながら慎重に確認しましょう。
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示談金の支払いを受ける
示談書が締結されると、加害者側から示談金が支払われます。支払い方法は一括払いが望ましいですが、加害者側の事情によっては分割払いになることもあります。
ただし、分割払いの場合、途中で支払いが滞るリスクがあります。そのため、示談金の受領前に「すぐに示談を成立させてよいのか」をよく考えることが重要です。示談を急ぎすぎると、十分な補償を受けられない可能性があるため、慎重に判断しましょう。
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示談書を警察・検察や裁判所に提出する
示談が成立すると、加害者の刑事処分に影響を与える可能性があります。示談書は、起訴前であれば検察官に、起訴後であれば裁判所に提出され、加害者にとって有利な証拠となることがあります。
被害者としては、示談の内容を十分に理解し、納得した上で手続きを進めることが重要です。
示談成立や示談交渉の刑事責任への影響
ここでは、示談が成立したことや、示談交渉を行ったことが刑事責任へどのような影響を及ぼすのかを解説します。
示談成立の刑事責任への影響
示談が成立し、被害者が加害者を許す意思を示すと、検察官は起訴を見送り、不起訴処分とする可能性があります。
また、起訴後に示談が成立した場合でも、裁判官は量刑を決定する際にこれを考慮し、執行猶予付きの判決や減刑が認められることがあります。
示談交渉をしたことの刑事責任への影響
示談交渉自体が行われたことも、加害者の反省や被害者への誠意を示すものとして評価される場合があります。
ただし、示談が成立しなかった場合、その影響は限定的であり、刑事責任の軽減に直結するとは限りません。
金銭を受領したことの刑事責任への影響
被害者が加害者から金銭的補償を受け取ると、被害回復が進んだと評価されることが多いです。この点を検察官や裁判所が考慮し、起訴猶予や量刑の軽減につながる可能性もあります。
ただし、事件の重大性や加害者の反省の程度など、さまざまな要素を踏まえて判断されるため、金銭を受領したからといって必ず刑が軽くなるとは限りません。
謝罪文や謝罪申し入れの刑事責任への影響
加害者が被害者に対して謝罪文を送ったり、直接謝罪の意思を伝えたりすることは、反省の態度として評価されることがあります。
しかし、これらの行為だけで刑事責任が軽減されるわけではなく、示談の成立や被害者の意見など、他の要素と併せて考慮されます。
被害者が示談交渉のときに検討するポイント
加害者側から示談を持ちかけられた場合、被害者は慎重に判断する必要があります。示談に応じることで金銭的な補償を受けることができますが、一方で加害者の刑事処分が軽減される可能性もあります。
そのため、示談に応じるかどうかは、被害者自身の意向をしっかり整理した上で決めることが重要です。以下の5つのポイントを踏まえて検討しましょう。
POINT
- 処罰についての意見を決める
- 警察や検察へ自分の考えを伝える
- 民事と刑事の手続きの進捗を確認しながら進める
- 決着を付けてもよいという内容で示談する
- 判断に悩んだら弁護士に相談する
① 処罰についての意見を決める
示談をするかどうかを決める前に、加害者に対する刑事処罰を求めるかどうかを考える必要があります。示談が成立すると、被害者が処罰を望まない意思であると判断され、加害者が不起訴になる可能性があります。特に、被害が大きく加害者に厳しい刑事処分を求めたい場合は、示談をせずに厳罰を求める方が適切な場合もあります。
一方で、示談をすることで金銭的な補償を早期に受けられるというメリットもあります。
刑事処分を求めるのか、それとも金銭的な補償を優先するのか、被害者自身がどのような解決を望むのかを明確にしましょう。
② 警察や検察へ自分の考えを伝える
示談をするかどうかに関わらず、被害者の意向は警察や検察に伝えることができます。特に、示談を希望しない場合は、加害者の処罰を求める意思をはっきりと伝えることが重要です。
また、示談を考えている場合でも、警察や検察に相談し、示談が刑事処分にどのような影響を与えるかを確認することが望ましいです。示談に応じたとしても、事件の内容によっては加害者が起訴されることもあるため、事前に専門家の意見を聞くことが大切です。
③ 民事と刑事の手続きの進捗を確認しながら進める
示談を行う際には、民事手続きと刑事手続き双方の進捗を確認しながら進めることが重要です。
加害者は不起訴を狙い、できるだけ早く示談を成立させたいと考えることが多いですが、被害者が焦って示談をすると、適正な賠償額を十分に話し合う時間がなくなることがあります。
特に、けがの治療が終わっていない段階で示談を進め、清算条項(これ以上請求しないという条項)が記載されると、後遺症が残った場合に追加の補償を求めることが難しくなる可能性もあります。
一方で、加害者が刑事処分の軽減を強く望んでいる場合、示談を成立させるために高額な賠償金を提示することもあります。
そのため、示談交渉が望ましいタイミングはケースバイケースです。刑事手続きと民事の賠償請求がどの段階にあるのかを確認し、最も適切なタイミングで示談を進めることが重要です。加害者の意向に流されず、弁護士と相談しながら慎重に判断しましょう。
④ 決着を付けてもよいという内容で示談する
示談をする場合、示談書を作成するのが一般的です。示談書には、金銭の支払いだけでなく、加害者の刑事処分に関する被害者の考えを記載することもできます。
たとえば、「加害者の処罰を望まない」「加害者の寛大な処分を求める」というような記載があると、刑事事件の処分で加害者が有利になります。被害者は、示談書が自分の意思に沿った内容かどうか、必要な条項をしっかりと確認しましょう。
⑤ 判断に悩んだら弁護士に相談する
示談に応じるべきかどうか迷う場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
加害者は、刑事処分の軽減を目的に早期の示談を求めることが多いですが、被害者はただそれに応じるのではなく、自分にとって最善のタイミングを見極める必要があります。
弁護士に相談することで、示談金の妥当性を判断できるだけでなく、示談交渉の時期を調整しながら、より有利な条件で示談を進めることができます。示談の条件に納得できるかどうかを慎重に検討し、焦らず適切な解決を目指しましょう。
まとめ:示談による加害者の刑事責任への影響
示談が成立すると、加害者にとって不起訴や刑の軽減につながる可能性があります。被害者が謝罪を受け入れ、示談金の支払いが完了したことは、加害者の反省を示す要素として考慮されるため、検察官が起訴を見送ることもあります。また、起訴された場合でも、執行猶予が付いたり、罰則が軽減されたりすることがあります。
ただし、示談が成立すれば必ず刑事責任が軽くなるわけではなく、飲酒運転や死亡事故などの悪質なケースでは、示談をしても厳しい処罰が科されることが少なくありません。さらに、示談によって被害者が処罰を望まない意思を示したとしても、検察官の判断次第で起訴されることもあります。
示談のタイミングも重要で、早く示談すれば加害者が不起訴になる可能性が高まる一方、損害賠償の金額が十分に検討されないまま決まることもあります。一方で、刑事手続きの進行を見極めながら交渉を進めることで、より適正な補償を受けられる可能性もあるため、焦らず慎重に判断することが大切です。
示談をするかどうか、またその条件をどう決めるかは被害者次第ですが、判断に迷った場合は、弁護士に相談し、適切な示談の進め方についてアドバイスを受けることをおすすめします。

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弁護士 粟津 正博