交通事故の加害者が不起訴!検察審査会に申立するとどうなるか?
最終更新日:2025年04月14日

- 監修者
- よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
- Q交通事故の加害者が不起訴の場合、検察審査会に申立するとどうなりますか?
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交通事故が発生した場合、加害者は状況に応じて刑事責任が問われる可能性があります。
警察が捜査を行い、加害者の供述や証拠を基に事件を検察へ送致します。検察官は、その証拠や法律に基づき、起訴(刑事裁判にかける)するか、不起訴(刑事裁判にしない)にするかを判断します。
検察官が 「不起訴処分」と判断した場合でも、被害者やその遺族がその判断に納得できないことがあります。そのような場合には、「検察審査会」へ申立てをすることが可能です。
検察審査会に申し立てをすると、一般市民から選ばれた審査員が、検察官の不起訴判断の適否を審査し、以下の3つのうちから結論を出します。
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不起訴相当検察官の判断が妥当であると認められ、不起訴のままとなります。加害者は起訴されず、刑事裁判にはなりません。
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不起訴不当検察が再捜査を行い、改めて起訴・不起訴を判断します。
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起訴相当
検察が再捜査を行い、それでも不起訴とした場合、検察審査会が再審査を行います。最終的に「起訴議決」となれば、裁判所が指定した弁護士が検察官の代わりに起訴し、加害者は裁判で刑事責任の有無を問われることになります。
もっとも、検察審査会への申し立てがうまくいくかは個別の状況によって異なります。悩んだら、交通事故に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
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目次

刑事手続きの流れ
交通事故の加害者は、事故の状況によって刑事責任を問われることがあります。刑事手続きは、警察の捜査から始まり、検察の判断を経て、最終的には裁判へと進む可能性があります。
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事故発生後の対応
交通事故が発生すると、警察への通報や被害者の救護が必要になります。加害者がこれを怠った場合、「報告義務違反」「救護義務違反(ひき逃げ)」として厳しく処罰されます。
警察が現場に到着すると、実況見分を行い、事故の詳細を記録します。被害者も、自身のけがの状況を正確に伝えましょう。人身事故の場合は、後日病院で診断書を取得して提出します。
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警察の捜査と取り調べ
警察は、加害者や被害者の証言をもとに実況見分調書や供述調書を作成します。
被害者としては、警察に事故の状況を詳しく説明し、自身の損害やけがの状況についても正しく伝えることが重要です。事故の証拠(目撃者の証言やドライブレコーダーの映像など)がある場合、警察に提出すると、加害者の責任が明確になります。
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逮捕の有無とその後の手続き
加害者がすぐに逮捕されるケースと、逮捕されずに捜査が進むケースがあります。
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逮捕されるケース
重大な事故(死亡事故や重傷事故)や飲酒運転、ひき逃げなどの場合、加害者は現行犯逮捕、もしくは後日逮捕されることがあります。逮捕された場合、最長23日間勾留され、身柄を拘束されたまま取り調べを受ける可能性があります。
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逮捕されないケース(在宅捜査)
加害者が事故現場にとどまり、逃亡や証拠隠滅の恐れがない場合、逮捕されずに通常の生活を続けながら警察や検察の捜査を受けます。
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検察の判断(起訴・不起訴)
警察の捜査が終わると、事件は検察に送致され、起訴するか、不起訴とするかの判断が下されます。
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起訴処分(正式裁判・略式裁判)
起訴されると、加害者は刑事裁判を受けることになります。軽微な事故で罰金刑が見込まれる場合は、略式裁判で罰金が言い渡されますが、重大事故の場合は正式裁判となり、禁錮刑や懲役刑が科されることもあります。
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不起訴処分
検察が「刑事裁判にかける必要がない」と判断した場合、不起訴となり、加害者は刑事責任を問われません。被害者としては、不起訴処分に納得がいかない場合、検察審査会に異議申し立てをすることができます。
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裁判と判決
正式裁判となった場合、被害者も証人として出廷することがあります。判決では、加害者が有罪か無罪かが決まり、有罪なら罰金刑・懲役刑などの刑罰が科されます。被害者は、刑事裁判とは別に、加害者に対して民事訴訟(損害賠償請求)を行うことも可能です。
検察審査会とは
検察審査会は、検察官が事件を不起訴とした場合に、その判断が正しかったかどうかを一般市民が審査する制度です。
選挙権を有する国民の中から無作為に選ばれた11人の検察審査員が、検察の判断を再評価し、必要に応じて再捜査や起訴を求めることができます。検察審査会は各地方裁判所と主要な支部に置かれています。
審査を申し立てることができるのは、犯罪の被害者や、その家族、事件を告訴・告発した人などに限られます。また、まれに検察審査会が報道などを通じて事件を知り、職権で審査を開始することもあります。
検察審査会の審査によって、不起訴処分が不当と判断されると、検察官は再捜査を行い、改めて起訴・不起訴の判断をすることになります。場合によっては、裁判所が指定する弁護士が検察官の代わりに起訴を行うこともあります。こうした仕組みにより、検察の判断が適切に行われているかを市民が監視し、公正な司法の実現に寄与しています。
不起訴に納得できないときの流れ
加害者が不起訴になった場合でも、被害者やその家族がその判断に納得できないことは少なくありません。そのような場合、検察官に不起訴の理由を確認したり、刑事記録を取り寄せて事件の内容を詳しく分析したりすることができます。
それでも納得がいかない場合は、検察審査会への申し立てを検討し、正式に審査を依頼することも可能です。
検察官と面談して不起訴の理由を確認する
まず、検察官と面談して不起訴になった理由を確認します。捜査の結果や証拠の状況によっては、検察官が「立件が難しい」と判断している場合もあります。納得できる説明が得られれば、不起訴の判断を受け入れることも考えられます。
刑事記録を取り寄せして分析する
次に、刑事記録を取り寄せて詳しく分析しましょう。捜査記録を確認することで、事故の状況や証拠の内容を把握し、検察官の判断が適切だったかを検討できます。ただし、不起訴になった場合、入手できる資料には制限があり、すべての記録が開示されるわけではないので注意が必要です。
不起訴になった事件の刑事記録の取り寄せは、検察庁に申立てをします。全ての記録ではなく、実況見分調書など一部の記録のみの開示となります。
刑事記録を適切に活用することで、被害者として正当な賠償を受けるための強い証拠となります。
開示請求の手続きが難しい場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
検察審査会への申立を検討する
不起訴の判断に納得できない場合は、検察審査会への申し立てを検討します。検察審査会は、申し立てをする際には、不起訴処分が不当であると考える理由を明確にし、具体的な資料や意見書を提出することが重要です。
検察審査会へ申立する
検察審査会への申し立てができるのは、犯罪の被害者や告訴・告発を行った人、その遺族などに限られます。
検察審査会への申し立てを行うには、管轄の検察審査会に「審査申立書」を提出する必要があります。申立書には、不起訴処分が不当だと考える理由をできるだけ具体的に記載し、必要に応じて証拠資料を添付します。
検察審査会が議決をする
検察審査会が申し立てを受理すると、審査が開始されます。検察庁から事件の記録を取り寄せ、必要に応じて検察官の意見を聞きながら、不起訴の判断が適切だったかを検討します。その結果、検察審査会は①不起訴相当②不起訴不当③起訴相当のいずれかの議決を行います。
①不起訴相当の場合は、検察官の判断が妥当であると認められ、手続きは終了します。
②不起訴不当の場合は、検察官が再捜査を行い、改めて起訴・不起訴を判断します。
③起訴相当となった場合、検察官は再度の捜査を経て起訴を検討し、それでもなお不起訴とした場合は、検察審査会が再審査を行います。そこで再び「起訴すべき」と判断されると、検察官の判断に関係なく、裁判所が指定した弁護士が検察官の代わりに起訴を行うことになります。
検察審査会への申し立てのポイント
検察審査会に適切に訴えを伝えるためには、感情的な主張ではなく、客観的な証拠と法律に基づいた適切な手続きが必要です。以下のポイントを押さえて、より有利な審査を進めましょう。
客観的な証拠を準備する
検察審査会では、不起訴の判断が適切だったかどうかが審査されます。そのため、「なぜ不起訴が不当なのか」を証明するための客観的な証拠が必要です。
たとえば、事故現場の写真や防犯カメラ映像、ドライブレコーダーの映像、医師の診断書、目撃者の証言などが有力な証拠となります。特に、加害者の過失や危険運転を示す証拠を集めることが重要です。
また、警察の実況見分調書や供述調書を取得し、事故の状況と検察の判断に食い違いがないか確認しましょう。
客観的な証拠に基づいた主張の書面を作成する
検察審査会に提出する申立書には、不起訴が不当である理由を具体的に記載する必要があります。単に「納得できない」と感情を述べるだけでは、審査会の判断に影響を与えることは難しいです。
そのため、証拠に基づいた論理的な主張を整理し、具体的に説明することが大切です。たとえば、「実況見分調書には加害者の信号無視が記録されているのに、不起訴とされた理由が不明である」「当時の道路状況や速度からすれば事故を回避することは可能であった」「目撃者の証言と加害者の供述が食い違っており、十分な捜査が行われていない」といった点を明確に指摘しましょう。
法的な根拠も示しながら、なぜ再捜査が必要なのかを論理的に説明することが必要です。
交通事故に詳しい弁護士に相談する
検察審査会への申し立ては、一般の人にとってなじみのない手続きであり、適切に進めるためには法律の知識が求められます。特に、証拠の整理や申立書の作成には、法律的な視点が不可欠です。そのため、交通事故に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。
弁護士は、検察官の判断が妥当かどうかを分析し、検察審査会に効果的な主張を行うためのアドバイスをしてくれます。また、証拠の収集や整理、不足している情報の補完など、より有利な申し立てができるようにサポートしてくれます。
特に、過去の類似事件の判例を踏まえた主張を組み立てることで、検察審査会の判断をより有利に導くことが可能です。
まとめ:加害者が不起訴の場合の検察審査会への申し立て
交通事故の加害者が不起訴になった場合でも、被害者には検察審査会に申し立てる権利があります。ただし、申し立てが認められるためには、客観的な証拠をしっかりと準備し、不起訴が不当である理由を明確に示すことが重要です。
そのために、まずは実況見分調書や目撃証言、ドライブレコーダーの映像などの証拠を集め、これをもとに論理的な主張を整理した申立書を作成しましょう。さらに、弁護士のサポートを受けることで、より強力な申し立てが可能になります。
検察審査会は、検察官の判断を見直す機関として重要な役割を担っています。適切な手続きを踏むことで、不起訴処分が覆り、加害者が起訴される可能性もあります。交通事故の被害にあい、不起訴の判断に納得できない場合は、早めに弁護士に相談し、検察審査会への申し立てを検討しましょう。

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弁護士 粟津 正博