肩鎖関節脱臼
―――― 目次 ――――
肩鎖関節脱臼の解説
肩鎖関節(けんさかんせつ)は、鎖骨と肩甲骨の間にある関節です。
肩鎖関節の脱臼は、肩峰の情報からの直接の外力によるものがほとんどで、整形外科外来でよく見られる肩の外傷とされています。
Ⅰ 捻挫 | 肩鎖靱帯の部分損傷です。烏口鎖骨靱帯や三角筋・僧帽筋は正常です。 XPでは、異常が認められません。 |
---|---|
Ⅱ 亜脱臼 | 肩鎖靱帯が完全断裂したものです。烏口鎖骨靱帯は部分損傷し、三角筋・僧帽筋は正常です。XPでは、関節の隙間が拡大し鎖骨遠位端が少し上にずれています。 |
Ⅲ 脱臼 | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに完全断裂し、三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れていることが多く、XPでは、鎖骨遠位端が完全に上にずれています。 |
Ⅳ 後方脱臼 | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに完全断裂し、三角筋・僧帽筋が鎖骨の端から外れたものです。鎖骨遠位端が後ろにずれている脱臼です。 |
Ⅴ 高度脱臼 | Ⅲ型の程度の強いものです。肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂し、三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全に外れています。 |
Ⅵ 下方脱臼 | 鎖骨遠位端が下にずれたものです。極めて稀です。 |
肩鎖関節脱臼は、肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯の損傷の程度や鎖骨のずれの程度等に応じて、上記の6つのグレードに分類されています。
大多数はグレードⅢ未満で、グレードⅥは、滅多に発生しないといわれています。
Ⅰ・Ⅱでは保存的療法が選択され、Ⅲでは保存的療法と観血的療法のいずれかによります。Ⅳ・Ⅴ・Ⅵでは観血的療法による固定が選択されています。
肩鎖関節脱臼の後遺障害認定のポイント
1 グレードⅠ
- グレードⅠの捻挫では、後遺障害を残しません。
2 グレードⅡ・Ⅲ
- グレードⅡ・Ⅲでは、外見上、鎖骨が突出し、ピアノキーサインが陽性となったまま症状固定に至ることがあります。ピアノキーサインとは、突出した骨を手で押すと下に押し込むことができるものの、手を離すとすぐに戻ることです。
- 裸体で変形が確認できれば、体幹骨の変形として12級5号が認められます。
あくまでも外見上分かる程度の変形であり、XP撮影により初めて分かる程度のものは後遺障害としては認められません。 - ピアノキーサインが陽性のときは、外見上変形していることが分かることを示す写真を撮影し、後遺障害診断書に添付して提出します。その際の写真ですが、両肩を撮影し、患側と健側の比較ができるようにしておく必要があります。
3 グレードⅣ・Ⅴ・Ⅵ
グレードⅣ・Ⅴ・Ⅵでは後遺障害等級10級、12級、14級に認定される可能性があります。
4 痛みの残存症状の取扱い
- 体幹骨の変形による12級5号では、骨折部の疼痛は周辺症状と扱われます。疼痛の症状が別途後遺障害に認定されて変形障害と併合されることはありません。つまり、疼痛の神経症状が12級13号に当たるから、結論的に併合11級になるということはありません。
- ただし、痛みの残存症状があれば、後遺障害逸失利益に影響してきます。また、変形が認められなくても、肩鎖関節部の痛みで12級13号や14級9号が認定されることもあります。そのため、痛みの残存症状があれば、そのことを後遺障害診断書に記載していただくことが望ましいでしょう。
5 機能障害の取扱い
- 肩鎖関節部の靱帯損傷や変形により、肩関節の可動域に影響を与えることが予想されます。こうしたときは、鎖骨の変形に加え、肩関節の機能障害が後遺障害認定に至る可能性があります。
- 骨折部位の状態はCT撮影や3DCT撮影で、靱帯の状態はMRI撮影で立証しなければなりません。
- 機能障害(可動域制限)の場合、10級10号、12級6号の認定の可能性があります。
6 肩鎖関節脱臼の症状と後遺障害等級のまとめ
等級 | 症状固定時の症状 |
---|---|
10級10号 | 患側の可動域が健側の2分の1以下となったもの |
12級6号 | 患側の可動域が健側の4分の3以下となったもの |
12級5号 | 鎖骨に変形を残すもの |
14級9号 | 脱臼部に痛みを残すもの |
併合9級 | 肩関節の可動域で10級10号+鎖骨の変形で12級5号 |
併合11級 | 肩関節の可動域で12級6号+鎖骨の変形で12級5号 |
7 肩関節の機能障害と鎖骨の変形障害の併合
- 肩関節の機能障害と鎖骨の変形障害は併合の対象となります。例えば、肩関節の可動域制限で後遺障害12級6号、鎖骨の変形で後遺障害12級5号の場合、12級が2つとなり併合11級となります。
- 他方、痛みの神経症状と、鎖骨の変形障害は併合の対象になりません。例えば、痛みの神経症状で後遺障害12級13号、鎖骨の変形で後遺障害12級5号の場合、12級が2つですが等級は12級のままとなります。ただし、痛みの残存症状があれば、後遺障害診断書への記載は必要です。後遺障害が1つの場合と2つの場合では、2つの方が多額の後遺障害逸失利益が認められやすくなるためです。