肘関節の後遺障害
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橈骨頭(頚部)骨折の解説
肘関節における骨折の1つです。肘を伸ばした状態で手をついて受傷することが多いです。交通事故では、肘を伸ばしてバイクを運転していたときに交通事故に遭って受傷するということが多いです。
ただし、この部位だけの骨折は稀です。多くの場合、上腕骨内上顆骨折、尺骨近位端骨折、尺側側副靭帯損傷などを合併します。
また、成人の場合は橈骨の骨頭骨折となり、小児では橈骨の頚部骨折となる傾向があります。
次の分類方法が良く用いられます。
- TypeⅠ 転位のないもの
- TypeⅡ 少しの転位はあるが、単一骨片にとどまるもの
- TypeⅢ 橈骨頭が3つ以上に粉砕骨折しているもの
TypeⅠにおいては、3~4週間のギプス固定で癒合を図ります。
TypeⅡでは、徒手整復がうまくいけば保存療法対象になりますが、そうでなければ、スクリューによる固定術が行われます。
TypeⅢのように粉砕骨折にまで至り、不安定性のあるものは、人工橈骨頭置換術、不安定性の少ないものは、橈骨頭切除術をせざるをえなくなります。
関節拘縮を避けるために、整復後の固定期間をできるだけ短くするよう努められています。
握力の低下や、遠位橈尺関節の不適合による手関節の機能障害が生じることがあります。
肘関節部の骨折が、手関節に影響を及ぼすわけです。橈骨と尺骨の仕組みに由来します。
多数の骨折等を合併する場合、治療期間も1年近くを要し、10級以上の後遺障害を残す可能性が高いです。
他方、橈骨頭(頚部)骨折のみが発生したときは、深刻なことにならないことが多く、完治することも多いです。後遺障害が残る場合には、14級又は12級の後遺障害となる可能性があります。
肘関節脱臼の解説
肘関節脱臼は、外傷性の脱臼の中では、肩関節に次いで発生頻度が高いです。
交通事故では、二輪車を運転中、手をつくように転倒した際に発症することが多いです。
肘関節脱臼の大部分は、後方脱臼です。
後方脱臼というのは、尺骨が上腕骨の後方に脱臼するものです。症状としては強い痛みを生じ、肘の曲げ伸ばしができなくなります。
XP撮影を行うと、上のとおり、尺骨が後方に抜けてしまっているのがわかります。画像検査を行わなくても、外見で尺骨が後方に飛び出しているのが分かります。
一方、前方脱臼は肘を曲げた状態で肘をぶつけたときなどに発症することが多いです。上腕骨の先端が飛び出し、肘頭の骨折を合併することがほとんどです。
脱臼に骨折を合併するときは、動揺関節や可動域制限などの後遺障害を残す可能性が高いです。
治療は、受傷からほとんど時間が経っていないときは、麻酔なしでも徒手整復できます。ただ、そのときに患部周辺の組織が損傷することを防ぐために、麻酔下での徒手整復を行うこともあります。
整復を行った後は、肘関節を約90°に曲げた状態で3週間程度の副木またはギプスによる固定がなされます。肘関節脱臼のみが生じたケース(骨折を合併していないケース)では、後遺障害が残ることなく改善が得られます。
肘関節の脱臼と同時に内・外側副靭帯の損傷や橈骨頭骨折、尺骨鉤状突起骨折、上腕骨内上顆骨折、上腕骨小頭骨折、上腕動脈損傷、尺骨神経麻痺等を合併するものは、観血的手術の適用となります。
このような場合、肘関節に動揺関節の後遺障害が残ったり、可動域の制限が残ったりすることが考えられます。
以上のように、肘関節脱臼は完治することが多いです。他方、完治しない場合、10級、12級、14級の後遺障害に該当することもあります。
肘頭骨折の解説
肘頭とは、尺骨の近位端部にある丸みを帯びた突出部のことです。一般に「肘鉄」などと呼ばれる肘の頂点の部分です。肘頭骨折は、この部分に外力が加わることで生じます。
また、肘頭は、上腕三頭筋により上方へ引っ張られているので、これが骨折しますと、転位が生じます。下のイラストのとおりです。
痛みや腫れが生じ、肘の可動域制限と異常可動がみられ、単純XP撮影で骨折を確認できます。
骨折した肘頭の骨片が多数にわたるときは、AOプレートを用いて固定されています。
転位の少ないものは肘関節を90°に曲げた状態でギプスでの固定を4週間行いますが、転位の大きなものや粉砕骨折を合併したときなどは、観血的手術をして固定を行います。
下の図↓ Zuggurtung法(別名 tension band wiring法)
観血的手術による固定方法としては、
- ①髄内釘・螺子による固定
- ②フックプレートによる固定
- ③Kワイヤーを8の字形に締結して引き寄せて固定するZuggurtung法(別名tension band wiring法)など
が行われています。
完治しない場合、10級、12級、14級の後遺障害に該当することがあります。
尺骨鉤状突起骨折の解説
肘関節は、上腕骨の遠位端部を尺骨が受け入れるような形状になっています。
尺骨鉤状突起とは、イラストの赤線の辺りのことでして、尺骨と上腕骨の関節部分にある三角形に似た突起部分です。
尺骨鉤状突起骨折は、上腕骨滑車(上腕骨の関節面)と尺骨鉤状突起が衝突して生じます。肘関節の脱臼や脱臼骨折に合併してみられることがあります。肘関節の脱臼には至らなかったものの、相当の外力を受けた際に生じることもあります。
交通事故においては、転倒したときに手をつくといった受傷機転で発生に至ることが多いです。
Reganは、尺骨鉤状突起骨折について、次のように分類しました。
- TypeⅠ 鉤状突起先端部の剥離骨折
- TypeⅡ 高さにして25%以上50%以下、骨片に関節包と上腕筋の一部が剥がれたもの
- TypeⅢ 高さにして50%以上、上腕筋と内側側副靱帯が剥がれたもの
もっとも、骨折や脱臼の合併の有無や、靭帯付着部を含んだ部分を骨折しているかどうかなどが、予後の経過に大きな影響を及ぼしますから、この分類において、高さは参考程度に考えておいてよいかもしれません。
鉤状突起には、前方関節包、上腕筋、内側側副靱帯等の軟部組織が付着しており、これらが肘関節の安定に寄与しています。
これらの損傷を伴うことにより生じる肘関節の不安定性の有無を考慮に入れて、保存的治療を行うか観血的手術を行うか判断されています。
重症例は、尺骨鉤状突起骨折に、肘関節後方脱臼と橈骨頭骨折を合併したものです。これら3つを同時に受傷することをTerrible Triadと呼んでいます。
上記のTypeⅠであっても、Terrible Triadであるときは、固定術が行われます。
完治しない場合、10級、12級、14級の後遺障害に該当することがあります。
肘関節の後遺障害認定のポイント
完治することが多いです。
- 橈骨頭(頚部)骨折、肘関節脱臼、肘頭骨折、尺骨鉤状突起骨折などは、単独損傷にとどまっており、かつ、受傷直後に適切な診断と治療が行われていれば、後遺障害を残すことなく改善することが多いです。
不完全な徒手整復と長期間ギプス固定を行ったことにより肘関節の拘縮が生じることがあります。
転位の少ない鉤状突起骨折では、保存治療が選択されるのですが、最初の2週間は、肘関節を約90°に曲げた状態でギプスやギプスシーネで固定がなされます。
そして、受傷後1週の段階で、支柱付きの肘関節装具の採型を行い、さらに、装具には伸展制限のストッパーもオプションで追加しておきます。
2週間が経過したころ、ギプスなどの除去をしてからは、この装具を約3か月間装用します。
当初は尺骨鉤状突起の転位を防ぐために、屈曲45°から60°程度の伸展制限をつけ、段階的に伸展制限を軽減し、最終的には受傷後6週間程度で伸展制限を解除します。
肘関節を長期間固定すると、尺骨鉤状突起の骨癒合は良好に行われるのですが、肘関節に強い拘縮が残ってしまいます。したがって、肘関節の不安定性に対する治療をしつつ、可動域を維持するには、早いうちから積極的に肘関節可動域訓練を行う必要性があります。
ところが、このようなリハビリ治療が行われないことも珍しくありません。6週間固定されていた例もあります。
長期の固定が実施され、肘関節に可動域制限が残ったときは、後遺障害の立証を行います。
拘縮は、ギプスやギプスシーネでの固定期間を診断書の記載から確認し、その記載が被害者本人の認識と一致しているか確認します。
動揺関節が残ったときは、装具の発注の事実と、ストレスXP写真を用いて後遺障害の立証をします。
関節の機能障害(動く範囲の制限)がある場合、後遺障害10級、12級、14級となる可能性があります。
合併損傷が起きているときは、望ましい治療が行われたときでも、ほぼ確実に後遺障害が残ります。
単純損傷ではなく合併損傷が起きている場合に考えられる後遺障害は、肘関節の機能障害、神経麻痺、動揺関節、痛みの神経症状です。 機能障害では、骨癒合の状況が決め手となるので、3DCTを撮影して、360度回転の方向から見ることができるようにしておきます。
神経麻痺が生じているときは、神経伝達速度検査、針筋電図検査を行います。
なお、神経麻痺のとき、自分の意思で動かすことはできませんが、他動値は正常になります。
動揺関節の有無は、ストレスXP撮影を行うことで立証します。
合併損傷の場合、様々な後遺障害の箇所に応じて個別に後遺障害等級認定がなされることとなります。