脊椎の圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
この記事では脊椎の後遺障害が残る被害者に向けて、脊椎の後遺障害の認定基準やポイントなどを交通事故に詳しい弁護士が解説します。
脊椎の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
―――― 目次 ――――
- 1. 脊椎(頚椎・胸椎・腰椎)とは
- 2. 脊椎の圧迫骨折とは
- 3. 脊椎の破裂骨折とは
- 4. 環軸椎脱臼や亜脱臼とは
- 5. 変形障害とは
- 6. 運動障害とは
- 7. 荷重機能障害とは
- 8. 脊柱の変形障害の後遺障害認定基準
- 9. 脊柱の運動障害の後遺障害認定基準
- 10. 脊柱の荷重機能障害の後遺障害認定基準
- 11. 脊柱に複数の後遺障害があるときなどの注意点
- 12. 圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼の逸失利益
- 13. 圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼の後遺障害の慰謝料
- 14. まとめ:脊椎の圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼
1. 脊椎(頚椎・胸椎・腰椎)とは
脊椎(せきつい)とは背骨のことです。脊柱(せきちゅう)とも言います。自賠責の認定基準上は「せき柱」と表現します。
脊椎は、上から頚椎、胸椎、腰椎及び仙骨と尾骨で構成されています。頚椎は7個の椎骨、胸椎は12個の椎骨、腰椎は5個の椎骨でできています。
一つ一つの椎骨は、前方に支柱となる椎体が存在し、その後ろに脊髄の通り道である脊柱管があります。脊柱管の後方は椎弓によって覆われ、椎弓と椎体は椎弓根によって結び付けられています。
脊椎の役割
脊椎には大事な3つの役割があります。
1つ目は、体を支える機能です。椎骨が連なって背骨となることで、体の体幹機能を支えています。
2つ目は、体を動かす機能です。椎体と椎体の間にある椎間板が弾力性の高い構造となっているため、私たちは背骨と連動して体を前後左右に曲げたりひねったりすることができます。
3つ目は、脊髄などの神経を保護する機能です。脊椎の中には、脊髄という大事な神経が通っています。この脊髄を損傷すると、手足が動かなくなるなど重大な障害が生じます。
2. 脊椎の圧迫骨折とは
脊椎の圧迫骨折とは、椎体の前方が押し潰されるように変形する骨折です。折れるというよりは潰れるという表現のほうが近いです。
胸椎の骨折を胸椎圧迫骨折、腰椎の骨折を腰椎圧迫骨折といいます。胸椎あるいは腰椎の番号を前に付けて、第〇胸椎圧迫骨折と表現します。
椎骨に縦方向の大きな力が加わると、その外力に耐えきれずに椎体が前方から押し潰されて圧迫骨折が生じます。交通事故では、歩行中あるいは自転車やバイクが転倒して、尻もちをついたときに発生するのが典型です。
圧迫骨折の治療は通常コルセットで固定しベッドで安静を保ちながら、痛み止めによる保存的治療を試みます。椎体の圧潰が進むときや、手足の麻痺などの脊髄症状があるときは手術をすることが多いです。
3. 脊椎の破裂骨折とは
椎体の前方だけではなく、中央から後ろ側の壁まで損傷してしまう骨折が破裂骨折です。破裂骨折は胸椎下部から腰椎上部に発生することが多いです。
椎体の後方には脊髄が通っているため、損傷した骨や骨片が神経を圧迫・損傷して重篤な神経症状が出ることがあります。
交通事故によって脊柱の破裂骨折が起こり、神経症状があるときは手術をすることが多いです。
4. 環軸椎脱臼や亜脱臼とは
環軸椎脱臼とは、頚椎のうち1番目(環椎)と2番目(軸椎)がずれてしまい、脱臼することです。不完全な脱臼を環軸堆亜脱臼と表現することもあります。
交通事故では、後頭部方向から大きな外力が加わり過屈曲が強制されることで、軸椎の歯突起が骨折し、環軸椎脱臼・亜脱臼が発生することがあります。
頚椎の1番目(C1)と2番目(C2)の内部を走行する脊髄が圧迫を受けたり損傷すると、手足の麻痺などの神経症状を引き起こします。症状の程度は人によって様々ですが、重篤なときは環軸椎を安定化させて固定する手術をします。
保存療法のときは頚椎カラーという首を固定する装具を着用します。
5. 変形障害とは
変形障害とは、骨折によって骨の形が変形したことが客観的にわかるときなどの後遺障害です。
通常は骨折をしても元どおりくっついて、変形は残りません。
もっとも、脊椎の椎体がつぶれると、そのままくっついて変形を残してしまうことがほとんどです。したがって、脊椎の圧迫骨折や破裂骨折では脊椎の変形を残してしまい、後遺障害となることが多いです。
6. 運動障害とは
運動障害とは脊椎の骨折後、動く範囲に制限がでるような障害です。頚椎の場合は首、胸腰椎の場合は腰を前後に曲げて可動域を測定します。
7. 荷重機能障害とは
荷重機能障害とは、脊柱の支持機能が失われ、首や腰を自力で支えられなくなった状態です。圧迫骨折等により脊柱の体幹を維持する機能が失われると、補装具が必要な状態になります。
8. 脊柱の変形障害の後遺障害認定基準
圧迫骨折や破裂骨折で脊椎の変形を残すときは、次の後遺障害となることがあります。
6級5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
---|---|
8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
脊椎の変形障害の詳細な後遺障害の認定基準は、脊椎の圧迫骨折にてご確認下さい。
9. 脊柱の運動障害の後遺障害認定基準
圧迫骨折や破裂骨折により運動障害を残すときは、次の後遺障害となることがあります。
6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
---|---|
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
脊椎の運動障害の詳細な後遺障害の認定基準は、脊椎の圧迫骨折にてご確認下さい。
10. 脊柱の荷重機能障害の後遺障害認定基準
圧迫骨折や破裂骨折により荷重機能障害を残すときは、次のような後遺障害になることがあります。
6級相当 | 頚部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |
---|---|
8級相当 | 頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |
脊椎の荷重機能障害の詳細な後遺障害の認定基準は、脊椎の圧迫骨折にてご確認下さい。
11. 脊柱に複数の後遺障害があるときなどの注意点
頚部と胸腰部に分けて後遺障害を認定
自賠責の後遺障害認定では、頚部と胸腰部に分けて後遺障害を認定します。これは、頚椎が頭部の支持機能、胸椎と腰椎が体幹の支持機能をそれぞれ別々に担っているという考えに基づいています。
同一部位に複数の後遺障害があるときは上位等級で認定
同一部位に複数の後遺障害があるときは、いずれか上位の等級で認定します。
たとえば、次のようなときは上位の8級のみの認定となります。
- 胸椎に圧迫骨折により単なる変形を残す障害(11級7号)
- 腰椎の可動域が破裂骨折により参考可動域の2分の1以下に制限された運動障害(8級2号)
頚部と胸腰部に別々の後遺障害があるときは併合して認定
頚部と胸腰部にそれぞれ別々の後遺障害があるときは、併合して後遺障害を認定します。
たとえば、次のようなときは併合7級です。
- 頚椎の圧迫骨折により単なる変形を残す障害(11級7号)
- 腰椎の可動域が破裂骨折により参考可動域の2分の1以下に制限された運動障害(8級2号)
- 2つをあわせて併合7級
関連情報
脊髄損傷のときは神経系統の障害として等級を認定
破裂骨折等により脊髄損傷となったときは、神経系統の障害として総合的に等級を認定します。そのため、脊柱の障害としては認定しません。
12. 圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼の逸失利益
脊柱の後遺障害で最も多いのは、脊柱の変形による後遺障害です。
脊柱の変形障害は逸失利益が問題となることが多いです。後遺障害があったとしても労働能力に影響が少ないこともあるためです。
そのため、具体的に生じている仕事上や生活上の支障を被害者は主張しましょう。あわせて次のような点を主張するとよいでしょう。
- 体幹の不安定性、疲れやすさといった脊柱の持つ支持機能や保持機能が害されていないかどうか。
- 骨折した変形部への負荷が経時的に増大し、将来にわたる症状の悪化の可能性がないかどうか。
13. 圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼の後遺障害の慰謝料
脊椎の圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼では、6級、8級、11級の後遺障害となることが多いです。
裁判の基準だと、後遺障害の慰謝料は次のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
---|---|
6級 | 1,180万円 |
8級 | 830万円 |
11級 | 420万円 |
保険会社が提示する慰謝料が少ないときは、交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
14. まとめ:脊椎の圧迫骨折・破裂骨折・環軸椎脱臼や亜脱臼
脊椎圧迫骨折とは、椎体の前方が押し潰されるように変形する骨折です。
破裂骨折とは、椎体の前方だけではなく、後ろ側の壁まで損傷してしまう骨折です。
環軸椎脱臼とは、頚椎のうち1番目(環椎)と2番目(軸椎)がずれてしまい、脱臼することです。
圧迫骨折等による変形障害は次の後遺障害になることがあります。
- 脊柱に著しい変形を残すもの(6級5号)
- 脊柱に中程度の変形を残すもの(8級相当)
- 脊柱に変形を残すもの(11級7号)
運動障害は次の後遺障害になることがあります。
- 脊柱に著しい運動障害を残すもの(6級5号)
- 脊柱に運動障害を残すもの(8級2号)
荷重機能障害は次の後遺障害になることがあります。
- 頚部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの(6級相当)
- 頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの(8級相当)
脊椎の圧迫骨折などで悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
(監修者 弁護士 粟津 正博)