醜状(しゅうじょう)の後遺障害
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
傷跡(醜状)の後遺障害は、傷跡の場所と大きさで決まります。この記事では傷跡が残る被害者にむけて、傷跡の場所ごとの認定基準、認定のポイント、損害賠償の注意点などを交通事故に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。
なお、傷跡(醜状)の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
―――― 目次 ――――
- 1. 醜状の後遺障害
- 2. 外貌の醜状の後遺障害認定基準
- 3. 上肢や下肢の露出面の醜状の後遺障害認定基準
- 4. 日常露出しない部位の醜状の後遺障害認定基準
- 5. 醜状の後遺障害認定のポイント
- 6. 醜状の後遺障害と損害賠償
- 7. まとめ:醜状の後遺障害
1. 醜状の後遺障害
醜状とは
醜状(しゅうじょう)とは、一定の瘢痕(はんこん)や線状痕(せんじょうこん)、色素沈着、縫合や手術の跡などです。
瘢痕とは擦り傷や切り傷、やけどの傷跡なとです。線状痕とは線状の傷跡です。
また、傷跡以外にも、骨の欠損や陥没による皮膚の凹凸、耳や鼻の欠損、神経の麻痺による顔面や口の歪みなども醜状です。
醜状の後遺障害は場所ごとに異なる基準
後遺障害の基準は、醜状が残った場所により異なります。具体的には次の3つに分けて判断します。
① 外貌(がいぼう)(首から上)
② 上肢・下肢
③ 日常露出しない部位
2. 外貌の醜状の後遺障害認定基準
外貌とは
外貌とは、首から上の頭、顔面、首にかけての部位で日常露出する部分です。
顔に傷跡が残ってしまうと、社会生活や対人関係における障害が特に大きいことが多いです。そのため、上肢や下肢などの傷跡と比べると後遺障害になりやすいです。
外貌の醜状の後遺障害認定基準
外貌醜状の後遺障害の等級は、7級(著しい醜状)、9級(相当程度の醜状)、12級(単なる醜状)です。
外貌に著しい醜状を残すもの (7級12号) |
① 頭部:手のひらの大きさ以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大きさ以上の欠損 ②顔面:鶏卵の大きさ以上の瘢痕又は10円玉の大きさ以上の組織の陥没 ③首:手のひらの大きさ以上の瘢痕 |
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外貌に相当程度の醜状を残すもの (9級16号) |
顔面:長さ5センチメートル以上の線状痕 |
外貌に醜状を残すもの (12級14号) |
①頭部:鶏卵の大きさ以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵の大きさ以上の欠損 ②顔面:10円玉の大きさ以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕 ③首:鶏卵の大きさ以上の瘢痕 |
外貌に著しい醜状を残すもの(7級12号)
外貌に相当程度の醜状を残すもの(9級16号)
外貌に醜状を残すもの(12級14号)
外貌の後遺障害認定基準の注意点
- 認定の対象となる醜状は、人目につくものに限られます。たとえば、髪の毛や眉毛に隠れる部分は認定の対象になりません。
- 手のひらとは指の部分を含みません。被害者本人の手のひらの大きさとの比較になります。
- 鶏卵の大きさとは、大体16平方センチメートル程度以上の面積があれば後遺障害が認定されることが多いようです。
傷跡以外の外貌の醜状障害の注意点
- 顔面神経麻痺に伴う口のゆがみは、単なる醜状として12級になります。
- 眼、耳、鼻の欠損障害は、欠損による等級と醜状による等級を比較して、上位の後遺障害等級になります。
3. 上肢や下肢の露出面の醜状の後遺障害認定基準
上肢や下肢の露出面とは
上肢や下肢の露出面とは、上肢は肩関節より下を指します。下肢は股関節より下を指します。
上肢や下肢の露出面の醜状の後遺障害認定基準
上肢や下肢の露出面の醜状の後遺障害等級は12級(てのひらの3倍程度以上)、14級(てのひらの大きさ以上)です。
上肢の露出面にてのひらの3倍程度以上の瘢痕を残すもの(12級相当) |
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下肢の露出面にてのひらの3倍程度以上の瘢痕を残すもの(12級相当) |
上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの(14級4号) |
下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあと(瘢痕または線状痕)を残すもの(14級5号) |
醜状(14級4号と14級5号)
上肢や下肢の露出面の後遺障害認定基準の注意点
- 「手のひらの大きさの醜いあと」(14級)とは瘢痕だけでなく線状痕も含みます。
- いずれも被害者の手のひらの大きさとの比較になります。
4. 日常露出しない部位の醜状の後遺障害認定基準
日常露出しない部位とは
日常露出しない部位とは、胸部および腹部、背部および臀部をいいます。
日常露出しない部位の醜状の後遺障害認定基準
日常露出しない部位の醜状の後遺障害の等級は12級、14級です。
胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の2分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すもの(12級相当) |
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胸部及び腹部、又は背部及び臀部の全面積の4分の1程度以上の範囲に瘢痕を残すもの (14級相当) |
5. 醜状の後遺障害認定のポイント
早期に治療をスタートすること
交通事故による醜状が症状固定日まで一貫して残り、将来にわたっても治らないことが後遺障害の認定には必要です。そのため、事故直後に傷跡が生じたことが確認できることが必要です。
そして、大きな事故は特に要注意です。救命救急科や整形外科での骨折などの治療が中心となり、挫創や創傷などの傷跡の記載が診断書にないことがあります。
そのため、しっかりと傷跡を医師に申告し、診断書や診療記録に記載してもらいましょう。また、自分でも写真を残しておけば有力な証拠になります。
定期的に受診をすること
はじめに救急搬送となった病院では、整形外科や脳神経外科の医師による定期的な受診の指示があることが多いです。治療のために必要だからです。
しかし、傷跡は簡単な創傷処置のみのこともあります。今後の具体的な受診の指示がないこともあります。
そのため、できるだけ早めに専門の形成外科や皮膚科への通院を開始して、傷跡の治療を定期的にしましょう。万が一、傷跡が残ってしまうときは、専門の形成外科や皮膚科で後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
症状固定後に速やかに後遺障害を申請
傷跡の治療期間はケースバイケースです。もっとも、事故から6か月が過ぎて症状固定となったときは、後遺障害の申請ができます。
症状固定となったときは、速やかに後遺障害の申請をしましょう。
もし、傷跡以外の負傷部位の治療が続くときは、傷跡の後遺障害の申請を先行したほうが良いケースもあります。
後遺障害診断書に傷跡の形状と大きさを図示
傷跡が残ってしまったときは、後遺障害診断書に傷跡の形状と大きさを図示してもらいましょう。
形成外科以外で後遺障害診断書を作成すると、傷跡の記載がないケースがあります。傷跡の記載がないと、後遺障害の審査すらされません。
後遺障害診断書に添付する交通事故受傷後の傷痕等に関する所見という専用の書式があります。この書式を医師に渡すと確実です。
面接調査などの認定方法
傷跡の後遺障害は、通常の後遺障害と異なる審査方法となることが多いです。
具体的には、被害者が調査事務所に行って面接をします。面接では、担当者がメジャーや定規をあてて実際に傷跡の大きさを測ります。
なお、傷跡の写真を提出すると面接調査は省略となることもあります。
2つ以上の傷跡があるとき
2つの傷跡があるときのルールは複雑です。
「相隣接し、又は互いに相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合」は、2つの傷跡の面積や長さを合算して等級を認定するルールになっています。
たとえば、顔に1cmと2cmの線傷が隣り合って残ったとします。
2つの傷跡をあわせて検討すれば3cmです。「外貌に醜状を残すもの」(12級14号)になります。他方、別々に検討すれば1cmと2cmです。後遺障害は非該当です。
「相隣接し、又は互いに相まって」という要件は、具体的な基準が明らかになっていません。調査事務所の調査員の判断に委ねられています。
このようなケースは弁護士としっかり打ち合わせのうえ、調査事務所での面談をしましょう。傷跡を一体として判断すべきこと、傷跡による影響や生活上の不利益があることなどを担当の調査員に伝えることが望ましいでしょう。
6. 醜状の後遺障害と損害賠償
逸失利益
後遺障害になったときは、通常は逸失利益の賠償があります。後遺障害によって労働能力を喪失したために、将来収入が減少するであろう分の賠償です。
もっとも、醜状障害は見た目の後遺障害です。そのため、保険会社は逸失利益を容易に認めない傾向があります。次の2つのポイントに注意して逸失利益を主張しましょう。
① 残った傷跡が実際に仕事に与える影響
② 傷跡以外の症状の有無と程度
① 残った傷跡が実際に仕事に与える影響
残った傷跡がどのように実際の仕事に影響を与えるかをしっかり分析しましょう。
たとえば、接客業やモデル、俳優など容姿が問われる仕事では、逸失利益が認められる確率は高いでしょう。
また、対人コミュニケーションが事故前と同じようにできなくなったため、営業活動や社内での昇進・昇格、転職活動に影響が出ることもあります。このようなときも逸失利益が認められる可能性はあります。
② 傷跡以外の症状の有無と程度
傷跡以外の症状の有無や程度をしっかり分析しましょう。
たとえば、傷跡にともなう痛みやしびれ、感覚障害があるときは、逸失利益が認められる可能性があります。
そのため、傷跡以外の症状があるときは、主治医に必ず申告して後遺障害診断書の自覚症状欄にしっかり記載してもらいましょう。
醜状の後遺障害と男女差
男性より女性の方が醜状障害の客観的なダメージが大きいという考え方が以前はありました。
もっとも、近年では、男女問わず醜状障害が仕事に影響を与えるとの判断であれば、逸失利益は認められます。
慰謝料
仮に仕事への影響なく逸失利益が認められにくいケースでも、日常生活や間接的な仕事への影響が認められることがあります。このようなときは後遺障害慰謝料を増額するケースもあります。
7. まとめ:醜状の後遺障害
傷跡(醜状)は、場所と大きさに応じて後遺障害を認定します。
①外貌(首から上)②上肢・下肢③日常露出しない部位というそれぞれの場所により、異なる認定基準があります。
そして、後遺障害認定のためのポイントは次のとおりです。
① 早期に治療をスタートすること
② 定期的に受診をすること
③ 症状固定後に速やかに後遺障害を申請すること
④ 後遺障害診断書に傷跡の形状と大きさを図示してもらうこと
⑤ 面接又は写真により基準以上の大きさの傷跡が残っていることを認定してもらうこと
傷跡(醜状)の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
(監修者 弁護士 粟津 正博)