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交通事故知識ガイド交通事故による後遺障害の解説

胸腹部臓器の後遺障害

最終更新日:2024年5月23日

監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博

胸腹部臓器の後遺症
胸腹部臓器とはいわゆる内臓等です。胸腹部臓器の後遺障害は、呼吸器、循環器、腹部臓器、泌尿器、生殖器に分けて等級が定められています。

この記事では胸腹部臓器の後遺障害が残る被害者にむけて、後遺障害の認定基準、認定のポイントなどを交通事故に詳しい弁護士が解説します。

胸腹部臓器の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 胸腹部臓器の後遺障害

胸腹部臓器の後遺障害は、その障害の程度により10種類の後遺障害等級があります。

  • 1級~2級は、介護を要する程度を判定基準としています。
  • 3級~13級は、主に労働能力に及ぼす影響を判定基準としています。
別表第一
1級2号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し常に介護を要するもの
別表第一
2級2号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し随時介護を要するもの
別表第二
3級4号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し終身労務に服することができないもの
別表第二
5級3号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
別表第二
7級5号
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し軽易な労務以外の労務に服することができないもの
別表第二
7級13号
両側の睾丸を失ったもの
別表第二
9級11号
胸腹部臓器の機能に障害を残し服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
別表第二
9級17号
生殖器に著しい障害を残すもの
別表第二
11級10号
胸腹部臓器の機能に障害を残し労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
別表第二
13級11号
胸腹部臓器の機能に障害を残すもの

2. 呼吸器の障害

呼吸器
呼吸器とは肺、気管、気管支、横隔膜のことです。

呼吸器の後遺障害認定基準は、動脈血ガス分析検査、スパイロメトリー、運動負荷試験によるものがあります。

(1) 動脈血ガス分析検査による後遺障害認定基準

動脈血ガス分析検査とは、動脈血を採取し、専用の器機で①動脈血酸素分圧②動脈血炭酸ガス分圧を測定する検査です。

① 動脈血酸素分圧とは

動脈血酸素分圧とは、動脈血液中に溶け込んでいる酸素の量を分圧単位(Torr=トル)で表したものです。数値が低いほど異常を示します。

70Torr以下になると後遺障害が認定されます。なお、健常者の平均値は100Torr程度です。

② 動脈血炭素ガス分圧とは

動脈血炭素ガス分圧とは、血液中の肺胞換気量を示したものです。35 ~45 Torr が正常値です。高値であれば肺胞低換気を、低値であれば過換気状態を示します。

等級認定上は37Torr~43Torrが限界値とされ、限界値を逸脱すると後遺障害が認定されます。

動脈血ガス分析検査による後遺障害認定基準

動脈血ガス分析検査による後遺障害認定基準は次のとおりです。

◎動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの
1級 呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
2級 呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
3級 上記の1級及び2級に該当しないもの(介護が必要でないもの)
◎動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの
1級 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下をいう。以下同じ。)にないもので、かつ、呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
2級 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
3級 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、上記1級及び2級に該当しないもの
5級 上記の1級、2級および3級に該当しないもの
◎動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの
7級 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの
9級 上記の7級に該当しないもの
◎動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの
11級 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの
◎動脈ガス分析検査による後遺障害認定基準の一覧

動脈ガス分析検査による後遺障害認定基準の一覧

(2) スパイロメトリーによる後遺障害認定基準

スパイロメトリーとは、スパイロメーターという肺活量を図る計測器による検査です。

最初の1秒間に吐き出した息の量を1秒量といい、1秒量/予測1秒量で算出される数値を%1秒量といいます。80%以上(軽症)、50~80%未満(中等症)、30~50%未満(重症)、30%未満(最重症)とされます。

胸いっぱいに息を吸い、最大の速さで強く一気に吐き出した時の空気の量を努力性肺活量といいます。

予測肺活量(性別・年齢・身長から予測)に対する実際の努力性肺活量の割合を示したものを%肺活量といいます。80%以上が基準値とされています。

スパイロメトリーによる後遺障害認定基準は以下のとおりです。

◎%1秒量が35以下又は%肺活量が40以下であるもの
1級 高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
※「高度の呼吸困難」とは、呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないものをいいます。
2級 高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
3級 高度の呼吸困難が認められ、上記の1級及び2級に該当しないもの(介護が必要でないもの)
7級 中程度の呼吸困難が認められるもの
※「中等度の呼吸困難」とは、呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行が可能であるものをいいます。
11級 軽度の呼吸困難が認められるもの
※「軽度の呼吸困難」とは、呼吸困難なため、健常者と同様には階段の昇降ができないものをいいます。
◎%1秒量が35を超え55以下又は%肺活量が40を超え60以下であるもの
7級 高度又は中等度の呼吸困難が認められるもの
11級 軽度の呼吸困難が認められるもの
◎%1秒量が55を超え70以下又は%肺活量が60を超え80以下であるもの
11級 高度、中等度又は軽度の呼吸困難が認められるもの
◎スパイロメトリー検査による後遺障害認定基準

スパイロメトリー検査による後遺障害認定基準

(3) 運動負荷試験の結果による後遺障害認定基準

運動負荷試験とは次のような試験です。

  • 6分間や10分間等の歩行試験
  • 50m歩行試験

動脈ガス分析検査スパイロメトリーによる判定では等級に該当しないものの、呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ、運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるものは、11級に該当します。

3. 循環器の障害

循環器
循環器とは、心臓、心膜、大動脈のことです。

(1) 心機能の低下

心筋梗塞、狭心症、心臓外傷等により心機能が低下したときの認定基準は、心機能の低下による運動耐容能の低下の程度により、次のとおりとなります。

9級 心機能の低下による運動耐容能の低下が中等度であるもの

おおむね6METs(メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるものがこれに該当する。

(例)平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるもの

11級 心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるもの

おおむね8METsを超える強度の身体活動が制限されるものがこれに該当する。

(例)平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動に支障がないものの、それ以上激しいか、急激な身体活動が制限されるもの

METsとは、安静時座位における酸素摂取量を1とし、その何倍の酸素摂取量にあたるかを示す運動強度の単位です。

運動強度
(METs)
作業・運動の内容
1~2 机上の事務的な仕事
パソコン、タイプ作業
ゆっくりとした歩行(時速12キロ程度)
食事、洗顔、歯磨き
2~3 守衛・管理人の業務
調理作業
立って電車等に乗る
3~4 機械の組み立て作業
溶接作業
トラックの運転
タクシーの運転
普通の歩行(時速4キロ程度)
シャワーを浴びる
4~5 軽い大工仕事
草むしり
階段降りる
5~6 シャベルを使う穴掘りの作業
雪かき
早足での歩行
6~7 大工作業
農作業
垣根の刈り込み
階段を昇る
7~8 ジョギング(時速8キロ程度)
8~ 階段を連続して上る
ジョギング(時速10キロ程度)
  • 実際の等級評価においては、METs単位に加えて、左室駆出率や心電図・超音波エコー検査等の検査所見を踏まえた上で総合的な判断となることが多いです。
  • 左室駆出率とは心拍ごとに心臓が送り出す血液量を心臓が拡張した時の左室容積で割った値です。

(2) 除細動器またはペースメーカを植え込んだもの

除細動器は、心室細動の発生をいち早く検知し、電気ショックを与えて心室細動を止める装置です

ペースメーカーは、人工的に心臓を動かすための装置です。

除細動器やペースメーカーを植え込んだときは、次の後遺障害が認定されます。

7級 除細動器を植え込んだもの
9級 ペースメーカを植え込んだもの
  • 除細動器やペースメーカーの埋め込みは、診断書や診療報酬明細書から確認されれば足り、画像上の証明は不要です。
  • 除細動器またはペースメーカを植え込み、かつ、心機能が低下したものは、併合の方法を用いて準用等級を定めます。

(3) 房室弁または大動脈弁を置換したもの

房室弁とは心臓の心房と心室の間にあり、血液の逆流を防止する機能を果たしています。
大動脈弁とは左心室の出口にあり、血液の逆流を防止する機能を果たしています。

房室弁や大動脈弁を損傷すると、人工弁を縫合する置換術を行う必要があります。

抗凝血薬療法の有無によって、次のとおり後遺障害が認定されます。

9級 房室弁又は大動脈弁の置換が施行され、かつ継続的に抗凝血薬療法を行うもの
11級 房室弁又は大動脈弁の置換が施行され、継続的に抗凝血薬療法を行わないもの
  • 抗凝血薬療法とは、血液が固まる働きを抑制して、血液をさらさらにする投薬療法で、血栓症の予防のために行われます。
  • 房室弁や大動脈弁の置換は、診断書や診療報酬明細書から確認されれば足り、画像上の証明は不要です。

(4) 大動脈解離を残すもの

大動脈解離とは、大動脈の血管壁に亀裂が入り、血液が流れ込んで、本来の血液の流れとは別の流れができた状態です。血管壁が避けた状態を「解離」といいます。

大動脈解離を残すものの後遺障害は次のとおりです。

11級 偽腔開存型の解離を残すもの
  • もともとの血液の通る場所を真腔といい、血管がさけたことによりできた血液の通る場所を偽腔といいます。
    偽腔に血流のあるものは偽腔開存型、偽腔が血栓で閉塞したものは偽腔閉鎖型ですが、後遺障害が認定されるのは偽腔開存型です。

4. 腹部臓器の障害

腹部臓器

(1) 食道の障害

食道は、咽頭と胃の間にある長さ24~25cmの管であり、食物を咽頭から胃に運搬する機能を有しています。  

食道に狭窄が生じたときの後遺障害は次のとおりです。

9級 食堂の狭窄による通過障害を残すもの
  • 後遺障害が認定されるためには、通過障害の自覚の他、消化管造影検査による造影剤の鬱滞が認められることが原則として必要です。
  • 造影剤の鬱滞が認められなくても、治療状況や流動食以外の通過の可否、栄養状態を総合的に勘案して等級が認定されることもあります。

(2) 胃の障害

胃は、食道と腸をつないでいるJ字型の袋状の臓器です。 食べたものをためておく、食べたものを消化する、消化された食べものを少しずつ腸に送り出すといった機能を有しています。

胃の後遺障害認定基準は、胃の切除により生じる症状の有無や程度により、次のとおりとなります。

7級 消化吸収障害、ダンピング症候群及び胃切除術後逆流性食道炎のいずれも認められるもの
9級 消化吸収障害及びダンピング症候群が認められるもの又は消化吸収障害及び胃切除術後逆流性食道炎が認められるもの
11級 消化吸収障害、ダンピング症候群又は胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるもの
13級 噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失したもの

消化吸収障害

消化吸収障害は、①②いずれかに該当する場合に認められます。

  • ① 胃の全部を亡失
  • ② 噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重等(BMI20以下。ただし、受傷前からBMI20以下の場合は体重の10%以上を減少したもの。)になった場合

ダンピング症候群

ダンピング症候群は、①②いずれにも該当する場合に認められます。

  • ① 胃の全部又は幽門部を含む胃の一部を亡失
  • ② 食後30分以内に出現するめまい、起立不能等の早期のダンピング症候群に起因する症状又は食後2時間後から3時間後に出現する全身脱力肝、めまいなどの晩期ダンピング症候群に起因する症状が認められる

胃切除術後逆流性食道炎

胃切除術後逆流性食道炎は、①②③いずれにも該当する場合に認められます。

  • ① 胃の全部又は噴門部を含む胃の一部を亡失
  • ② 胸やけ、胸痛、嚥下困難等の胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状がある
  • ③ 内視鏡検査により食道にびらん、潰瘍等の胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見が認められる
◎胃の後遺障害認定基準の一覧
消化吸収障害 ダンピング症候群 胃切除術後逆流性食道炎
7級
9級 ×
×
11級 × ×
× ×
× ×
13級 × × ×
噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失したものに限る

⑶ 小腸の障害

小腸は、胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに分解し、栄養素を吸収するはたらきをしています。 上から、十二指腸、空腸、回腸の3つに区分されます。成人の小腸の長さは600㎝あるといわれています。

小腸を大量に切除したもの

小腸を切除すると、その程度に応じて次の後遺障害が認定されます。

9級 残存する空腸及び回腸の長さが100cm以下になったもの
11級 残存する空腸及び回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの
  • 子供等でもともとの小腸の長さが短いときは、上記の基準によらず総合的に判断して等級が認定されることもあります。
  • 小腸を切除したことにより人工肛門を造設したものは、「人工肛門を造設したもの」の後遺障害認定基準で等級を認定します。

人工肛門を造設したもの

人工肛門(ストマ)とは、手術で腸管をおなかの表面に直接出して、排泄口にすることです。

人工肛門を造設した場合、次の後遺障害が認定されます。

5級 小腸の内容が漏出することにより、ストマ周辺に著しい皮膚のびらん(ただれ)を生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級 人工肛門を造設したもの
  • 人工肛門は永久人工肛門に限ります。

小腸皮膚瘻を残す場合、その程度によって次のとおり後遺障害が認定されます。

5級 瘻孔から小腸の内容の全部又は大部分が漏出するもので、パウチ等による維持管理が困難であるもの
7級 ①瘻孔から小腸内容の全部又は大部分が漏出するもので5級に該当しないもの(パウチ等による維持管理可能)
②瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上のもので、パウチ等による維持管理が困難であるもの
9級 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上のもので7級に該当しないもの(パウチ等による維持管理可能)
11級 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のもの
  • 粘液の漏出についても後遺障害認定の対象となることがあります。

小腸の狭窄を残すもの

小腸に狭窄が生じた場合の後遺障害認定基準は次のとおりです。

11級 1か月に1回程度、腹痛・腹部膨満感・嘔気・嘔吐などの症状が認められ、単純X線像においてケルクリンクひだ像(多数の輪状のひだ)が認められる

⑷ 大腸の障害

大腸は、小腸と肛門をつないで、水分やミネラルを吸収し、便を作る働きをしています。

大腸を大量に切除したもの

大腸を切除したときの後遺障害認定基準は次のとおりです。

11級 結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したもの
  • 大腸を切除したことにより人工肛門を造設したものは、「人工肛門を造設したもの」の後遺障害認定基準で等級を認定します。

人工肛門を造設したもの

大腸を損傷し、人工肛門を造設したときは、次の後遺障害が認定されます。

5級 大腸の内容が漏出することにより、ストマ周辺に著しい皮膚のびらん(ただれ)を生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級 人工肛門を造設したもの
  • 人工肛門は永久人工肛門に限ります。

大腸の皮膚瘻を残すもの

大腸皮膚瘻を残す場合、その程度によって次のとおり後遺障害が認定されます。

5級 瘻孔から小腸の内容の全部又は大部分が漏出するもので、パウチ等による維持管理が困難であるもの
7級 ①瘻孔から大腸内容の全部又は大部分が漏出するもので5級に該当しないもの(パウチ等による維持管理可能)
②瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね100ml/日以上のもので、パウチ等による維持管理が困難であるもの
9級 瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね100ml/日以上のもので7級に該当しないもの(パウチ等による維持管理可能)
11級 瘻孔から少量ではあるが明らかに大腸内容が漏出する程度のもの
  • 粘液の漏出についても後遺障害認定の対象となることがあります。

大腸の狭窄を残すもの

大腸に狭窄が生じたときの後遺障害認定基準は次のとおりです。

11級 1か月に1回程度、腹痛・腹部膨満感等の症状が認められ、単純X線像において、貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間が認められる

便秘を残すもの

便秘を残す場合の後遺障害認定基準は次のとおりです。

9級 用手摘便を要すると認められるもの
11級 便意を残すもの(9級に該当しないもの)
  • 便秘の後遺障害が認定されるためには、排便反射を支配する神経の損傷がMRI、CT等により確認でき、排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に硬便であると認められる必要があります。

便失禁を残すもの

便失禁は肛門括約筋が障害されることにより生じます。

便失禁を残すときの後遺障害認定基準は次のとおりです。

7級 完全便失禁を残すもの
9級 常時おむつの装着が必要なものの内、完全便失禁を残すもの以外のもの
11級 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの
  • 脊髄損傷などの中枢神経の障害により排便障害を生じる場合は、他の神経障害と総合して等級を認定します。

(5) 肝臓の障害

肝臓は肋骨のしたに位置し、摂取した栄養素を分解したり、有害物質を解毒する役割を担っています。

肝臓の後遺障害には、肝硬変と慢性肝炎があります。認定基準は次のとおりです。

9級 肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限る)
11級 慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限る)
  • 肝臓の障害は、肝臓部位への直接的な受傷だけでなく、治療における輸血・投与する薬剤などによっても生じるケースがあります。

(6) 胆嚢の障害

胆嚢は、肝臓と十二指腸をつなぐ管の途中にあり、肝臓で作られた胆汁を蓄えるはたらきをしています。

胆嚢を失ったときは、次の後遺障害が認定されます。

13級 胆嚢を失ったもの
  • 胆嚢を失っても、特段の症状を生じないことが多いですが、脂肪の消化吸収機能の低下をもたらすことから、食事制限や食事摂取時間の制約を生じることがあります

(7) すい臓の障害

すい臓は、胃の後ろにある臓器です。血糖値を調節する内分泌機能と、消化酵素を分泌する外分泌機能を担っています。

この内分泌機能と、外分泌機能の障害の程度によって後遺障害が認定されます。

9級 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの
11級 外分泌機能の障害又は内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの
12級 軽微なすい液瘻を残したために皮膚に疼痛等を生じるもの
※他覚的所見の有無等により12級または14級となります。
14級

外分泌機能の障害

外分泌機能の障害は、上腹部痛、脂肪便(常食摂取で一日ふん便中脂肪が6g以上であるもの)、頻回の下痢等の外分泌機能の低下による症状が認められ、さらに次のいずれかに該当する場合に認められます。

  • ① すい臓の一部を切除したもの
  • ② BT-PABA(PBF)試験で異常低値(70%未満)を示したもの
  • ③ ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示したもの
  • ④ アミラーゼ又はエラスターゼの異常低値を認めるもの

内分泌機能の障害

内分泌機能の障害は、次のすべてに該当する場合に認められます。

  • ① 異なる日に行った経口糖負荷試験によって、境界型又は糖尿病型であることが2回以上確認されること
  • ② 空腹時血漿中のC-ペプチド(CDR)が0.5ng/ml以下(インスリン異常低値)であること
  • ③ Ⅱ型糖尿病に該当しないもの

(8) ひ臓の障害

ひ臓は胃の奥に位置するこぶしほどの大きさの臓器で、血液の貯蔵・管理機能があります。

ひ臓を失ったときは、次の後遺障害が認定されます。

13級 ひ臓を失ったもの
  • ひ臓を失っても、特段の症状を生じないことが多いです。もっとも、免疫機能の低下をもたらすことから、感染症にり患する危険性が増加することになります。

(9) 内臓のヘルニア

ヘルニアとは臓器の全体または一部が、正常な位置から逸脱した状態をいいます。

ヘルニアを生じたときは、その程度に応じて次の後遺障害が認定されます。

9級 常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの、又は立位をしたときヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの
11級 重激な業務に従事した場合等腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの
  • ヘルニアの状態の確認は、CT画像を撮影します。

5. 泌尿器の障害

(1) じん臓の障害

じん臓は、糸球体で血液をろ過して、余分な老廃物や塩分を尿として体外に排出する働きをしています。

腎臓の後遺障害は、腎臓を失っている場合と失っていない場合とに区別されます。糸球体濾過量による腎機能の低下の程度により等級が区別されます。

GFR値 30ml/分超
50ml/分以下
50ml/分超
70ml/分以下
70ml/分超
90ml/分以下
90ml/分超
じん臓を失っている 7級 9級 11級 13級
じん臓を失っていない 9級 11級 13級 非該当
  • GFRとは糸球体濾過量の略で、フィルターの役目を果たす糸球体が1分間にどれ位の血液を濾過し尿を作れるかを表しています。なお、健常者の平均は100ml/分程度です。

(2) 尿管、膀胱及び尿道の障害

尿管、膀胱及び尿道の後遺障害には、尿路変向術を行ったもの、排尿障害を残すもの、畜尿障害を残すものがあり、次のとおり認定基準が定められています。

◎尿路変向術を行ったもの
5級 非尿禁制型尿路変向術を行ったものの内、尿が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パッド等の装着ができないもの
7級 非尿禁制型尿路変向術を行ったものの内、5級に該当しないもの、又は禁制型尿リザボアの術式を行ったもの
9級 尿禁制型尿路変向術を行ったものの内、禁制型尿リザボア及び外尿道口形成術を除くもの
11級 外尿道口形成術を行ったもの又は尿道カテーテルを留置したもの
◎排尿障害を残すもの
9級 残尿が100ml以上であるもの
11級 残尿が50ml以上100ml未満であるもの又は尿道狭さくのため、糸状ブジーを必要とするもの
14級 尿道狭さくによりシャリエ式尿道ブジー第20番がかろうじて通り、時々拡張術を行う必要があるもの
◎畜尿障害を残すもの
7級 持続性尿失禁を残すもの又は切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁のため、終日パッド等を装着し、かつ、パッドをしばしば交換しなければならないもの
9級 切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの
11級 切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁があっても、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少し濡れるもの又は頻尿を残すもの
※頻尿は、次のすべてに該当する場合に認められます。

  • ① 器質的病変による膀胱容量の器質的な減少又は暴行若しくは尿道の支配神経の損傷が認められること
  • ② 日中8回以上の排尿が認められること
  • ③ 多飲等の他の原因が認められないこと

6. 生殖器の障害

(1) 男性

男性の生殖器の後遺障害認定基準は次のとおりです。

7級 両側の睾丸を失ったもの又は常態として精液中に精子が存在しないもの
9級 陰茎の大部分を欠損したもの、勃起障害を残すもの、射精障害を残すもの
※陰茎の大部分を欠損したものとは、陰茎を膣に挿入することができないと認められる場合です。

※勃起障害は、次のすべてに該当する場合に認められます。

  • ① 夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャンによる夜間陰茎勃起検査により証明されること
  • ② 支配神経の損傷等勃起障害の原因となりうる所見が会陰部の知覚、肛門括約筋のトーヌス・自律収縮、肛門反射及び球海綿反射筋反射に係る検査又はプロスタグランジンE1海綿体注射による各種検査のいずれかにより認められること

※射精障害は、次のいずれかに該当する場合に認められます。

  • ① 尿道又は射精管が断裂していること
  • ② 両側の下腹神経の断裂による当該神経の機能が失われていること
  • ③ 膀胱頚部の機能が失われていること
11級 一側の睾丸を失ったもの
※一側の睾丸の亡失に準ずべき程度の委縮を含みます。

(2) 女性

女性の生殖器の後遺障害認定基準は次のとおりです。

7級 両側の卵巣を失ったもの又は常態として卵子が形成されないもの
9級 膣口狭さくを残すもの、両側の卵管に閉塞若しくは癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの又は子宮を失ったもの
※膣口狭さくとは、陰茎を膣に挿入することができないと認められる場合です。
※狭骨盤とは、産科的真結合線が9.5㎝未満又は入口部横径が10.5cm未満の場合です。
11級 狭骨盤又は比較的狭骨盤が認められるもの
※比較的狭骨盤とは、産科的真結合線が10.5cm未満又は入口部横径が11.5cm未満の場合です。
13級 一側の卵巣を失ったもの

7. まとめ:胸腹部臓器の後遺障害

胸腹部臓器の後遺障害は、1級~13級まで等級があります。

呼吸器、循環器、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆嚢、すい臓、脾臓、泌尿器、生殖器ごとに等級の認定基準が定められています。

後遺障害認定のためには、認定基準を満たすだけではなく、交通事故との因果関係や医学的な原因を明らかにしなければなりません。

そのために、初診時に胸腹部臓器の受傷を示唆する診断名があるか、症状経過に不自然な点はないか、私病が発症した可能性を排斥できるか等の観点で検討する必要があります。

胸腹部臓器の後遺障害申請にあたっては、調査機関から医療照会を求められることが多いです。また必要な検査が行われていない場合、追加で検査を指示されることもあります。

胸腹部臓器の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

(監修者 弁護士 粟津 正博

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