頚椎捻挫(むちうち)の後遺障害
監修者:よつば総合法律事務所
弁護士 粟津 正博
―――― 目次 ――――
頚椎捻挫(むちうち)とは
頚椎捻挫(むちうち)とは、首に衝撃が加わったことが原因で負傷した状態をいいます。外傷性頚部症候群、外傷性神経根症などと呼ぶこともあります。
頚椎捻挫の症状
手に症状が出るのは、手を支配する神経が首を通っているためです。
首の構造と症状の原因
頚椎捻挫は、追突事故などの衝撃で頭部が大きく振られた結果、首に過屈曲や過伸展が生じ、椎間板・靭帯・筋肉などの軟部組織が大きく伸びてしまったり、断裂したりすることにより発症します。
関連情報
頚椎捻挫の4つの症状
頚椎捻挫は症状の態様や原因により、次の4つに分類します。
- ①頚椎捻挫型
- ②神経根型
- ③脊髄型
- ④バレ・リュー症状型
①頚椎捻挫型
首の痛みや、違和感、首の動きの悪さを訴える場合です。
事故による衝撃や意図しない前後運動が生じると、軟部組織が伸長や断裂して発症します。
②神経根型
手や腕にしびれや痛みを感じる場合です。首の痛みと併発することも多いです。
頚椎を通る脊髄の神経の根っこである神経根が圧迫や障害され、症状が出現します。神経学的所見の異常があることが多いです。
神経の根っこを障害される結果、支配神経の末端まで障害され、当該神経が支配する領域と一致する手足に放散痛やしびれ、知覚障害が生じます。
神経根型の場合、筋力低下があるほか、ジャクソン・スパーリングテストなどの神経根症状誘発テストで陽性反応があります。深部腱反射検査では、減弱・消失傾向の異常を示します。MRIによる画像診断が有効です。
③脊髄型
頚椎の内部を通う脊髄本体を損傷することにより、顕著に手足のしびれ、知覚障害を発症するものです。
神経学的検査では、深部腱反射は亢進、病的反射は陽性の反応を示します。MRIによる画像診断が有効です。
④バレ・リュー症状型
自律神経損傷型とも呼ばれます。他のタイプとは異なり、頭痛、めまい、吐き気などの不定症状を訴える場合です。耳鳴り、聴力低下などの例もあります。
フランスの神経学者の名前を冠して、バレ・リュー症状型と呼びます。頚部交感神経の過緊張や椎骨動脈循環障害などの原因が提唱されています。しかし、はっきりとした原因は不明です。
頚椎捻挫(むちうち)の後遺障害認定基準は?
一定期間治療しても、むちうちが完治しないことがあります。完治しないときは、後遺障害の申請を行うことができます。
後遺障害は1~14級まであります。第三者機関である自賠責調査事務所(損害保険料率算出機構)が判断します。
頚椎捻挫では、次の後遺障害の可能性があります。
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
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12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
後遺障害14級9号になるには?
後遺障害認定のためには、症状が残っているだけでは足りません。症状の裏付けとなる客観的な所見、将来にわたり症状が残ることの医学的所見が必要です。
しかし、頚椎捻挫は神経学的検査での異常なしが多いです。レントゲンやMRI画像で異常がないことも多いです。頚椎捻挫の症状の多くは軟部組織の異常が原因です。軟部組織の異常は、検査や画像ではわからないことが多いです。
しかし、神経学的検査や画像所見の異常がなくても、14級9号の後遺障害となる可能性はあります。
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
受傷時の状態とは
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
では、受傷時の状態とはどのような意味でしょうか?
受傷時の状態とは、受傷機転や事故発生状況です。
受傷機転とは、頚椎捻挫に至った原因や経緯のことです。いつ、どこで、どのような経緯で、どのようにして、どのような作用が加わって外傷が発生したかという内容です。
たとえば、どのような姿勢を取っていたときに衝撃を受け、衝撃により体がどのような動きをしたかという内容です。受傷機転が自然だと後遺障害認定で有利です。
事故発生状況とは交通事故の発生状況です。
たとえば、自動車の損傷が激しく修理額が大きい場合、事故発生状況は重大です。事故発生状況が重大だと、後遺障害等級認定で有利です。
治療の経過とは
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
では、治療の経過とはどのような意味でしょうか?
治療の経過とは、通院の期間や病院に行った日数、治療の内容です。
たとえば、たくさん通っているとき、長期間通っているときは後遺障害認定で有利です。
また、副作用のある薬を飲んでいるとき、ブロック注射を行っているときも症状が重いと評価できます。後遺障害認定で有利です。
連続性・一貫性とは
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
では、症状の連続性・一貫性とはどのような意味でしょうか?
症状の連続性・一貫性とは、訴える症状が一貫して矛盾せず、治療のために継続的に真面目に通院していることです。
たとえば、次のようなときは一貫性や連続性があります。後遺障害認定で有利です。
- 終始一貫して痛みやしびれを訴えているとき
- 痛みやしびれの箇所が変わらないとき
他方、次のようなときは一貫性や連続性がないことが多いです。後遺障害認定で不利です。
- 症状が重くなったり軽くなったりして症状の程度の変化が激しいとき
- 右腕がしびれていたり、左腕がしびれてたりして部位が変わるとき
まとめ:後遺障害14級9号になるには?
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
後遺障害12級13号になるには?
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)の後遺障害が認定されるのは、症状の裏付けとなる客観的な医学的所見が認められ、将来にわたって頑固な症状が残ることが医学的に証明されているときです。
12級13号になるには①神経学的検査、②画像所見、③自覚症状の一致が必要です。一致しないと12級13号の認定は難しいです。
神経学的検査・画像所見・自覚症状の一致とは
各領域の椎体には番号がついています。たとえば、頚椎の1番上がC1、2番目がC2です。
脊髄は椎体と椎体の間にできる空間(椎間孔)を通って、身体の各抹消部分に枝分かれしています。
たとえば、C5とC6の間を通るC5/6の右側の神経根が圧迫されると、右手の親指と人差し指にしびれが生じることが多いです。C6とC7の間を通るC6/7の右側の神経根が圧迫されると、右手の中指にしびれが生じることが多いです。
では、神経学的検査・画像所見・自覚症状の一致とはどういうことでしょうか?
次のようなとき、神経学的検査・画像所見・自覚症状は一致しています。
- 自覚症状は右手の親指のしびれがある
- 右手の親指のしびれに対応するC5/6の右側の神経根を圧迫しているというMRIの画像所見がある
- 腱反射などの神経学的検査でC5/6領域に対応する異常がある
神経学的検査はいくつかの種類がありますが、腱反射が客観性が高いです。頚椎捻挫では、症状と一致する部位の腱反射が低下または消失している異常が必要です。障害がある神経根支配領域の筋力が低下し、筋委縮が生じることも多いです。
MRI検査の依頼
MRI検査は後遺障害申請では重要です。しかし、治療にはあまり必要ではないことが多いです。そのため、医師からの提案がないときは、被害者が医師に検査をして欲しいとお願いする必要があります。
まとめ:後遺障害12級13号になるには?
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)の後遺障害が認定されるのは、症状の裏付けとなる客観的な医学的所見が認められ、将来にわたって頑固な症状が残ることが医学的に証明されているときです。
バレ・リュー症候群の後遺障害認定基準
バレ・リュー症候群も後遺障害認定の可能性はあります。「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)となることがあります。
もっとも、バレ・リュー症候群の諸症状は、検査しても原因不明が多いです。そのため、バレ・リュー症候群と診断書に記載があるだけで後遺障害認定となる確率は低いでしょう。
バレ・リュー症候群で首の痛みや手足のしびれを伴うとき
首の痛みや手足のしびれなどの症状(頚椎捻挫型、神経根型)がある場合、経験上14級9号となることがあります。
バレ・リュー症候群で頭痛・めまい・はきけなどの症状があるとき
頭痛・めまい・はきけなどの症状がある場合、確率は低いですが経験上14級9号となることもあります。
バレ・リュー症候群で耳鳴りを伴うとき
耳鳴りは次の後遺障害の可能性があります。
- 「耳鳴に係る検査によって、難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの」(12級相当)
- 「難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの」(14級相当)
耳鳴の検査によって、難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるものは12級相当、合理的に説明できるものは14級相当です。
耳鳴りの症状が生じているときは、主治医に事故直後から耳鳴りの自覚症状を伝えることが必要です。早期に耳鼻科を受診し、必要な検査をする必要があります。
症状の訴えがないまま事故後一定期間が経過してしまうと、交通事故が原因の耳鳴りと認められない確率が上がります。
まとめ:頚椎捻挫(むちうち)の後遺障害
頚椎捻挫(むちうち)では、14級9号や12級13号の後遺障害の可能性があります。
- 局部に神経症状を残すもの(14級9号)
- 局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)の後遺障害が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)の後遺障害が認定されるのは、症状の裏付けとなる客観的な医学的所見が認められ、将来にわたって頑固な症状が残ることが医学的に証明されているときです。
頚椎捻挫(むちうち)の後遺障害認定は複雑です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
(監修者 弁護士 粟津 正博)