神経系統の機能又は精神の障害

神経系統とは、脳から脊髄を通って手足に至る神経全般の部分です。

神経系統の後遺障害は、脳や脊髄の中枢神経の障害と、末梢神経の障害に分かれます。また、神経系統の後遺障害には、めまいや平衡機能の障害や、精神症状の障害も含みます。

この記事では神経系統の後遺障害が残る被害者にむけて、後遺障害の認定基準、認定のポイントなどを交通事故に詳しい弁護士が解説します。

神経系統の後遺障害は専門的な判断が必要です。悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

1. 神経系統の機能又は精神の障害

神経系統は、身体の各部位を支配し、情報の伝達や生命維持の機能を果たす重要な機関です。

中枢神経は、脳と脊髄からなり、情報を集約して全身に指令を送る神経系統の中心的なはたらきをします。

末梢神経は、中枢神経と体の各部位に分布する神経を結び、情報の伝達を行います。末梢神経は、運動神経自律神経からなります。

特に脳の損傷によって生じる症状は多岐にわたるため、機能の障害と精神の障害を総合的に考慮して等級の判断をします。

2. 神経系統の機能又は精神の障害による後遺障害等級

神経系統の後遺障害は、介護を要する中枢神経の障害(1級~2級)、中枢神経の障害(3級~9級)、局部の神経障害(12級~14級)に分類して等級が定められています。

介護を要する神経系統の機能又は精神の障害
1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
神経系統の機能又は精神の障害
3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
局部の神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

3. 脳の障害(器質性障害)

脳の障害は、高次脳機能障害と呼ばれます。

脳は頭蓋骨によって守られていますが、強い衝撃で脳を損傷した場合、高次脳機能障害となることがあります。

四肢の機能障害や、様々な認知障害を伴うほか、行動障害や人格変化が発生することも多く多種多様な症状が出ます。

高次脳機能障害が認められる場合、介護が必要であれば1級か2級が、介護が不要であっても就労の程度に応じて3級から9級がそれぞれ認定されます。

脳の損傷が認められ、高次脳機能障害として取り扱われるものの、症状が軽微な場合は12級が、高次脳機能障害としては取り扱わないものの将来も症状が改善しないことが医学的に説明可能な場合は14級が認定されます。

介護を要する神経系統の機能又は精神の障害
1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
神経系統の機能又は精神の障害
3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
局部の神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

4. 非器質性精神障害

非器質性精神障害は、脳の損傷はないものの精神症状を呈する障害です。

①抑うつ状態、②不安の状態、③意欲低下の状態、④慢性化した幻覚・妄想性の状態、⑤記憶又は知的能力の障害、⑥その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)といういずれかの精神症状を残し、日常生活や社会生活における能力への障害が認められる場合です。

交通事故の場合、うつ病やPTSD等の診断名がよく見られます。

非器質性精神障害の後遺障害認定基準は次のとおりです。

9級10号 局部に頑固な神経症状を残すもの通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
(例:非器質性精神障害のため、「対人業務につけない」ことによる職種制限が認められる場合)局部に神経症状を残すもの
12級13号 通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
(例:非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要である」場合)
14級9号 通常の労務を服することができるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの
(例:非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要である」場合)

等級認定においては、就労やその意欲の有無、日常生活や社会生活における能力の有無・助言・援助の必要性を勘案して判断します。

また、非器質性精神障害による後遺障害が認定されるためには、当該症状と交通事故の因果関係が専門医により証明されなければなりません。

5. 脊髄損傷

脊髄は脊柱(背骨)によって守られています。

交通事故等で強力な外力が加わることにより、脊髄に圧迫・断裂が生じて脊髄が損傷することを脊髄損傷といいます。

脊髄は、脊椎(背骨)の中を通って、脳と体全体の信号の伝達を行う重要な役割を果たしています。神経伝達機能が完全に断たれる完全損傷と、一部の伝達機能を残す不全損傷があります。

脊髄を損傷すると、しびれや感覚障害が生じ、重い場合は脳からの信号が断たれるため手や足が動かなくなります。また、膀胱直腸障害、排せつ障害などの重篤な症状を引き起こすこともあります。

症状は、損傷の生じた脊髄の部位(高位)以下に症状が出現するため、損傷個所が上位になるほど症状が重くなります。

たとえば、首の脊髄を完全に損傷すると、両手足が動かなくなり(四肢麻痺)、腰の脊髄を完全に損傷すると、手足は動くものの両脚が動かなくなります(対麻痺)

脊髄損傷が認められる場合、介護が必要であれば1級か2級が、介護が不要であっても就労の程度に応じて3級から9級がそれぞれ認定されます。

脊髄損傷として取り扱われるものの、症状が軽微な場合は12級が、脊髄損傷とは認められないものの将来も症状が残存することが医学的に説明可能な場合は14級が認定されます。

介護を要する神経系統の機能[恵古6]又は精神の障害
1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
神経系統の機能又は精神の障害
3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの
局部の神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

6. 末梢神経の障害

末梢神経は、脊髄から出て、体の隅々まで張り巡らされています。

末梢神経が交通事故の衝撃により損傷した場合、損傷した部位に痛み、しびれ、感覚麻痺、巧緻性低下、可動域制限などの症状が残存することがあります。

末梢神経の障害は、他覚的に証明できる場合は12級が、証明できないものの将来も症状が残存することが医学的に説明可能な場合は14級が認定されます。

局部の神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

末梢神経の損傷は、レントゲンなどの画像で証明することはできません。

末梢神経の障害がある場合は、筋電図検査・神経伝導速度検査による電気信号検査が有用です。また、筋委縮、Tinel(ティネル)徴候の有無、徒手筋力テスト(MMT)、感覚(触覚・痛覚・温度覚・振動覚)検査の結果なども証拠となります。

末梢神経の障害で代表的なものは以下です。
  1. 上腕神経叢麻痺
  2. 正中神経麻痺
  3. 橈骨神経麻痺
  4. 尺骨神経麻痺

7. むちうち(頚椎捻挫、腰椎捻挫、ヘルニア)

頚椎捻挫や腰椎捻挫など、首や腰を負傷した場合の症状も、局部の神経障害として後遺障害が認定されます。

症状が他覚的に証明できる場合は12級が、証明できないものの将来も症状が残存することが医学的に説明可能な場合は14級が認定されます。

局部の神経障害
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの
12級が認定されるのは、症状が他覚的に証明される場合です。認定には次の条件が必要です。
  1. 腱反射等の神経学的検査
  2. MRI等の画像所見
  3. 自覚症状と検査結果の一致

14級が認定されるのは、受傷時の状態や治療の経過を踏まえれば症状の連続性・一貫性が認められ、将来にわたって症状が残存することが医学的に説明可能な状態であるときです。

この判断においては、受傷時の衝撃や治療日数、投薬内容、治療内容、自覚症状に不自然な変遷がないかといったことが考慮されます。

8. その他特徴的な神経系統の障害

(1) 失調、めまい及び平衡機能障害

交通事故で頭を強く打ち、脳の損傷には至らないものの、失調(ふらつき)、めまい、平衡機能障害が生じることがあります。難聴・耳鳴り・吐き気などの症状を伴うこともあります。

また、バレー・リュー症候群のように、頚椎捻挫後の症状としてこれらの症状が生じることもあります。

失調、めまい及び平衡機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。

3級3号 生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡機能障害のために労務に服することができないもの
5級2号 著しい失調または平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの
7級4号 中等度の失調または平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの
9級10号 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級13号 通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの
14級9号 めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能障害検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの

めまいの分類と検査方法

めまいには、次の2種類があります。

  1. 定型性めまい(内耳性めまい)
    回転感が特徴です。「周囲がぐるぐる回る感じがする」「床が傾いている感じがする」などの症状があります。
  2. 非定型性めまい
    身体の不安定感が特徴です。「ふらつく感じがする」「フワフワと宙に浮いた感じがする」などの症状があります。

めまいの証明のためには、眼振の検査が必須です。このほかにも、平衡機能検査、迷路刺激検査などの方法があります。

もし、めまいが生じる場合には耳鼻科を受診して具体的な症状を伝え、上記の検査を行ってもらう必要があります。

(2) 疼痛等感覚障害(CRPS、RSD)

疼痛等感覚障害のうち、焼けるような痛み(灼熱痛)やナイフで切られたような痛みが慢性的に続き、重篤な症状を伴うものを複合性局所疼痛症候群(CRPS)といいます。

傷害による血流低下、交感神経の異常を原因とする見解などがありますが、現在もはっきりとした原因は解明されていません。

多くが手足に現れ、受傷機転に不釣り合いな激しい痛みを伴うため、しばしば問題になります。

複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、タイプⅠとタイプⅡの2種類に分類されます。

タイプⅡは、主要な末梢神経の損傷が確認され、それによって生じる痛みです。タイプⅡはカウザルギーと呼ばれます。

タイプⅠは、主要な末梢神経の損傷はないものの、微細な末梢神経の損傷によって痛みが生じるものです。タイプⅠは反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と呼ばれています。

カウザルギーの後遺障害認定基準

カウザルギー(タイプⅡ)による後遺障害の認定基準は次のとおりです。

7級4号 軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの
9級7号 通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級12号 通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の後遺障害認定基準

反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)(タイプⅠ)と認定されるのは、次の慢性期の主要な3つの症状が、健側と比較して明らかに認められる場合です。
  1. 関節拘縮
  2. 骨の萎縮
  3. 皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)

認定のためには、レントゲン、骨シンチグラフィー、サーモグラフィー等の検査により、他覚的な証明が必要です。

反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)(タイプⅠ)による後遺障害の認定基準は次のとおりです。

7級4号 軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの
9級7号 通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
12級12号 通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

9. まとめ:神経系統の機能又は精神の障害

神経系統の機能又は精神の障害は、1級、3級、5級、7級、9級、12級、14級の後遺障害が認定される可能性があります。

神経系統の機能又は精神の障害は、高次脳機能障害や脊髄損傷による中枢神経の障害と、末梢神経の障害があります。

また、めまいや複合性局所疼痛症候群についても後遺障害の認定基準が定められています。

神経系統の機能又は精神の障害の後遺障害認定は症状も多岐にわたり複雑です。症状に応じて、必要な検査を受ける必要があります。

悩んだら、まずは交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

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