内側側副靱帯損傷
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内側側副靱帯損傷の解説
右膝を正面からみています。
膝関節には、骨と骨をつなぐ靭帯が4つあります。
膝の左右の内側側副靭帯・外側側副靭帯と、前後の十字靭帯です。これらが膝関節を強固に固定するベルトの役割を果たしています。
靭帯が伸びきったり、部分断裂したり、全部断裂したりして膝関節が安定性を失い、膝崩れを発症することもあります。動揺関節と呼ばれる状態です。
内側側副靭帯は浅層、深層、後斜走靱帯の3層から成っており、膝関節内側部の大腿骨内側上顆から脛骨内側部にかけて走行しています。膝関節が外側に向かないように制御しており、外反不安定性を防止する役割を果たしています。
内側側副靭帯損傷は、靭帯損傷の中でも最も発生頻度が高いです。交通事故では、膝の外側から大きな衝撃が加えられたときに生じます。
限界を超えて下腿が外側に押し出され、または外側に向けて捻ると、内側側副靭帯が断裂します。
膝関節内は出血し、大きく腫れ、激痛を感じます。
外反ストレステスト(膝をまっすぐに伸ばした状態で、脛骨に内側から外側へ力を加えたとき、実際に脛骨が外側に動くかどうか確かめる検査です。)で陽性であれば、内側側副靭帯損傷が疑われます。ただし、損傷があっても外反ストレステストが陰性であることもあります。
外反ストレステストが陽性であれば、内側側副靭帯の損傷のレベルを知るために、単純XP、CTスキャン、関節造影、MRI等の検査を実施します。
XPやCTでは、大腿骨と脛骨の位置関係が分かります。MRIは、靱帯を描出することができますので、診断には有効です。
動揺性の立証は、ストレスXPテストによります。
脛骨を外側に押し出し、ストレスをかけた状態でXP撮影を行います。
断裂があるときは、脛骨が外側に押し出されて写ります。
内側側副靭帯だけの損傷であれば、痛みやぐらつきがそれほど大きくはないため、手術までは通常しません。
機能的膝装具を使用して膝に外方向の力が加わるのを避けつつ、運動療法を開始し、筋力訓練を行います。
内側側副靭帯損傷は単独で起きることが多いのですが、前十字靭帯、後十字靭帯の損傷や、内側半月板損傷を合併することもあります。
前十字靭帯損傷、内側側副靭帯損傷と内側半月板損傷が同時に発生したとき、Unhappy Trias(不幸の3徴候)と呼ばれ、予後不良とされています。
内側側副靭帯の単独損傷では、初期に適切な固定を実施すれば安定しますが、前十字靭帯損傷を合併しているときは、緩みやすくなります。
参考:前十字靱帯損傷の後遺障害解説
参考:後十字靱帯損傷の後遺障害解説
参考:半月板損傷の後遺障害解説
内側側副靱帯損傷の後遺障害認定のポイント
1)靱帯損傷は、その程度に応じて、次の3つに分類されます。
第1度靭帯損傷(最小限度の断裂) | 少ない数の線維の断裂を伴う局所的な損傷 |
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第2度靭帯損傷(部分断裂) | 多くの線維の損傷によって靭帯に弛緩があり、軽度から中程度の不安定性がある。 |
第3度靭帯損傷(完全断裂) | 靭帯の完全断裂により高度の不安定性がある。 |
2)第1度は支持機構の部分的な損傷であり、いわゆる膝関節の捻挫と呼ばれる程度のものです。
膝関節のいずれの部位の靭帯損傷においても、第1度または第2度にとどまったものは、保存療法により、改善をみることが多いです。
第3度では、早期の手術療法がしばしば必要になります。ただし、内側側副靭帯損傷が単独で起きた場合は、外反不安定性は大きくはないため、手術まで至らないのが通常です。
3)ストレスXP撮影は、どの程度の不安定性があるのかを数字で表して立証するために必要なものです。
放射線科の医師と技師にお願いしなければならないことですが、健側と患側の差を正確に比較するためには、放射線の照射方向が重要で、正確な正面または側面のXP画像で比較評価をしなければ、不正確な判定に至ることもありますから、注意しなければなりません。
MRIは、靭帯や半月板の損傷を立証するために必要です。それぞれの靭帯の走行に沿った断面での撮影をし、それが描出された画像により、靭帯損傷の程度を評価することができます。
4)後遺障害の対象は、動揺関節または損傷部の痛み・神経症状です。
内側側副靭帯の単独損傷が第1度にとどまったときは、通常、後遺障害が残ることはありません。
第2度になると、ストレスXP撮影で軽度の動揺性があることが立証され、かつ、靭帯損傷があること自体がMRIで立証されれば、「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」(12級7号)が認定される可能性があります。
内側側副靭帯の運動痛で「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)または「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)が認定される可能性もあります。
第3度まで至った内側側副靭帯損傷で保存療法が行われ、陳旧性となったものは、深刻な左右の動揺性が認められることもあります。やはり、ストレスXP撮影とMRIできちんと立証する必要がありますが、動揺性で「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)が認定される可能性があります。
5)なお、動揺関節の機能障害と運動痛の神経症状は、併合の対象ではなく、いずれか上位の等級が認定されています。つまり「関節動揺は10級相当、神経症状は12級相当」と判断されたとしても、10級が認定されます。