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交通事故知識ガイド下肢及び足指

膝蓋骨の骨折

膝蓋骨の解説

膝蓋骨(しつがいこつ)は、膝関節の前方に位置し、膝のお皿と呼ばれている丸い骨のことです。
膝蓋骨は、裏側の軟骨部で大腿骨と繋がっており、膝の曲げ伸ばし運動を滑らかに行い、膝関節の動きの中心としてサポートする役目を果たしています。
膝蓋骨

膝蓋骨骨折の解説

交通事故では、自転車、バイクと自動車の衝突で、車のバンパーが膝に直撃する、はね飛ばされて地面に膝を打つ、ダッシュボードに膝部を打ちつけるなどといった、膝の前面を直接ぶつけるという受傷機転で発症しており、膝部の外傷では、しばしば発生する骨折です。

症状は、強い痛みと膝関節の腫れが出現することと、膝を自分で伸ばすことができなくなるのが典型です。
膝蓋骨骨折

膝蓋骨骨折は、大きく3つのタイプに分けることができます。横骨折、縦骨折、粉砕骨折の3つです。
骨片の離開のない場合は、保存的に3~5週間程度のギプスによる固定がなされます。

横骨折は、膝を伸ばす大腿四頭筋が急激に強く緊張することにより膝蓋骨に外力が伝わることなどによって、膝蓋骨が上下に離解して発生します。骨片が上下に離開した横骨折では、ワイヤーで膝蓋骨を固定する手術を行うのが主流になっています。

オペ後のギプス固定はなく、早期に、膝の可動域の改善を目的としたリハビリテーションが始まります。
膝蓋骨に対する直撃で、開放性骨折となったときは、手術による固定と感染対策が必要となります。

治療成績は、単純な骨折では比較的良好です。

しかし、開放性骨折や骨片が3つ以上に粉砕された骨折、大腿骨顆部や脛骨プラトー部の骨折に合併したときは、難治性で、後遺障害が残ることが見込まれます。

膝蓋骨脱臼の解説

膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨が、膝の正面の本来の位置からずれることで、膝の構造・形態的特徴から、ほとんどは、膝の外側にずれます。(外側脱臼。)

通常、膝の横断面(輪切り図)では、膝蓋骨は大腿骨正面の溝にはまるような位置にあります。
膝蓋骨が溝を乗り越えて外れることを脱臼といい、ずれてはいるものの乗り越えてはいないものを亜脱臼と呼びます。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨

膝蓋骨は、太ももの側では大腿四頭筋という強い筋肉に、すねの側では膝蓋腱という線維につながり脛骨に連結しています。膝蓋骨は曲がった膝を伸ばすときに、滑車のような役目を果たし、大腿四頭筋の筋力を脛骨側に伝えるのをサポートしています。

膝蓋骨脱臼は10代の若い女性に多く発症し、スポーツ活動中などに起こります。
膝蓋骨脱臼は、ジャンプの着地などで筋肉が強く収縮したときや、膝が伸びた状態で急に脛骨をねじるような力が加わったとき、膝蓋骨を打撲したときなどに起こりますが、元々膝蓋骨が脱臼しやすい身体的条件(膝蓋骨に向き合う大腿骨の溝が浅い、膝蓋骨の形成不全、膝蓋腱の付着部が外側に偏位しているなど)を有している、遺伝的要因のある人に起こりやすいといわれています。

脱臼を発症しても、通常は病院に搬送される前に、膝蓋骨は元の位置に戻ります。戻らなければ病院で整復することになります。
膝蓋骨と大腿骨

脱臼発生に伴い、多くの患者に軟骨や骨の損傷が起こりますが(半数程度ともいわれます。)、その程度によっては早期に手術が必要になることもあります。

早期の手術の必要がないと判断されたときは、まず膝を装具(サポーター)などで固定することになります。痛みや関節の腫れが改善した段階では、徐々に体重をかけて歩き、膝を動かすようにします。

ダイナミックパテラブレース

ダイナミックパテラブレース

膝蓋骨脱臼が起こった患者の20~50%に再脱臼が起こるといわれています。
再脱臼に至らなくても、50%以上の患者に、痛みや膝の不安定感などの症状が残ります。
再脱臼を予防するための治療として、リハビリや運動用の装具による治療を行います。

リハビリでは、膝蓋骨が外側にずれるのを防ぐために膝蓋骨の内側につく筋肉を強化する一方、膝蓋骨を外側に引き寄せる筋肉や靭帯をストレッチで柔軟性を高めたり、脱臼を誘発するような姿勢や動作を回避するような運動を繰り返して練習したりします。

運動用の装具は、膝蓋骨が外側にずれるのを防ぐ構造物のついたものを使用します。
装具は脱臼後の早い時期に日常生活で使用、その後の一定期間はスポーツなどを行う機会に使用します。

膝蓋骨骨軟骨骨折の解説

膝蓋骨骨軟骨骨折は、膝蓋骨が脱臼するとき、または元の位置に戻るときに、大腿骨の外側の隆起と膝蓋骨がこすれ合って削ぐような力がはたらき、骨と軟骨が同時に骨折して剥がれ落ちて遊離体となるものです。若年の女性に多いです。
手術により、骨片を元の位置に戻すか、除去して固定します。

スリーブ骨折の解説

スリーブ骨折は、成長期の子供に多い膝蓋骨下端の剥離骨折で、骨片が小さく見逃されることが多いので要注意です。
治療としては、保存的にギプスによる外固定が行われます。

膝蓋骨の骨折の後遺障害認定のポイント

膝蓋骨全体図

1)一般的には、膝蓋骨骨折で後遺障害を残すことは少ないです。

2)もっとも、受傷から4か月以上経過しても、痛みで膝が曲がらない、腫れが引かないという事例もあります。

膝蓋骨の上端には大腿四頭筋腱が付着し、その先に膝蓋腱膜と呼ばれる膜が膝蓋骨を覆い、膝蓋骨の下端には、膝蓋靭帯が付着しています。
大腿四頭筋腱、膝蓋骨、膝蓋靭帯からなる仕組みを膝伸展機構と呼び、膝を伸ばす際に膝蓋骨が支点となって十分に膝の伸展筋力が発揮されるようになっているのです。
したがって、支点となる膝蓋骨が骨折により機能しなくなると、膝の曲げ伸ばしに非常に大きな影響をおよぼすことになります。

さらに、膝蓋骨裏の軟骨面は大腿骨の前面の軟骨と関節を形成しており、これを膝蓋大腿関節と呼びます。
膝蓋骨骨折によって、膝蓋骨の裏の軟骨部分に骨折線が入り、膝蓋大腿関節部の滑らかさが損なわれると、関節内で炎症を起こしてしまうときがあります。
膝蓋骨の骨折部分は癒合し、骨折線が無くなったとしても、関節面の滑らかさを失っており、痛みで可動域が狭くなり、腫れが引かないことになるのです。

つまり、膝蓋骨骨折後の骨癒合状況および軟骨損傷を立証すれば、後遺障害として認定される可能性があります。
具体的には、変形骨癒合は3DCT、軟骨損傷はMRIで立証します。

後遺障害としては、下肢の可動域制限として「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」(12級7号)、痛みの神経症状として「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)、「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)が認定される可能性があります。

参考リンク