股関節後方脱臼・骨折
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股関節後方脱臼・骨折の解説
乗車中の交通事故で、膝がダッシュボードに打ちつけられることにより発症することが多く、dashboard injury(ダッシュボード損傷)と呼ばれるものの1つです。
運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま、ダッシュボードに膝を打ちつけ、大腿骨が関節包を突き破り後方に押されて発症します。
股関節脱臼は、大腿骨頭が寛骨臼からはずれた方向により、後方脱臼、前方脱臼、下方脱臼、上方脱臼、内方脱臼に分かれますが、外傷性股関節脱臼の過半数を占めるのは、後方脱臼です。
後方脱臼が起こると、脱臼部位に激痛と腫れが生じ、関節の可動域は著しく制限されて内転、内旋し、後方に大腿骨が押し上げられることにより大腿は常に短縮します。
単純XP撮影で、大腿骨頭が寛骨臼からはずれているのを確認することができます。
後方脱臼が生じたときの措置ですが、全身麻酔又は脊椎麻酔を施したうえで、はずれてしまった大腿骨頭を寛骨臼にはめ込んで整復します。
寛骨臼骨折を合併しているときは、整復後、スクリューにより、骨折している寛骨臼を観血的に固定します。
骨折を合併しているときは、骨折片が坐骨神経を圧迫し、坐骨神経麻痺を引き起こすことがあります。
大腿骨頭は、内・外側大腿回旋動脈により栄養されています。股関節脱臼が生じてこの血管を損傷すると、大腿骨頭に栄養や酸素が供給されなくなり、大腿骨頭が壊死します。
股関節脱臼は12時間以内に整復することが望ましく、遅れるとこの大腿骨頭壊死が発生する確率が高くなります。
これを人工骨頭置換術といいます。 寛骨臼蓋の損傷が大きいときは、寛骨臼も人工のものにしなければなりません。
股関節自体が人工の関節に交換されることになります。 これを防止するには、いかに早く整復固定をするかにかかっています。
股関節後方脱臼・骨折の後遺障害認定のポイント
1 ①股関節の機能障害、②股関節の痛み、③大腿骨頭壊死に伴う人工関節置換、④下肢の短縮、が後遺障害の対象となります。
2 機能障害(可動域制限)が残ったとき、その原因となる脱臼や骨折の状況、その後の整復状況、癒合状況等を、3DCTやMRIで立証しなければなりません。
3 人工股関節に置換された場合、それを長くもたせるためには、定期的な健診を受けたり、肥満を避けたりするなどの必要が出てきます。
なお、人工関節の材質は、ポリエチレンから超高分子量ポリエチレン、骨頭については、セラミックが普及し、以前より耐久性が向上しています。
4 骨盤骨の変形に伴い、下肢の短縮が認められるときは、いずれか上位の等級が認定されます。
骨盤骨が変形したとき認定される可能性のある等級は12級5号ですが、同時に骨盤骨が変形したことに伴う下肢の短縮があり、それが3センチメートルに達しているときは、それは10級8号に該当します。 このときは、10級8号のみが認定されます。
一方、骨盤骨の高度変形により、股関節に運動障害が生じたとき、これらの等級は併合されます。
5 認定される可能性のある後遺障害のまとめ
・可動域制限の機能障害
「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」(8級7号)
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(12級7号)
・痛み
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)
「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)
・人工骨頭置換術又は人工関節置換術を行った場合
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)
・変形障害
「一下肢を三センチメートル以上短縮したもの」(10級8号)
「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」(12級5号)
「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」(13級8号)