大腿骨頸部骨折
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大腿骨頸部骨折の解説
股関節を形成する大腿骨の近位部は、大腿骨頭、大腿骨頸部、転子部と呼ばれる3つの部位に分かれます。転子部は、外側を大転子、内側を小転子と呼びます。
屈曲した大腿骨で身体が支えられているのですが、屈曲した部分は、転倒や転落の際に、外力が加わり、骨折しやすい形状となっています。
大腿骨頸部骨折は、骨粗鬆症で骨が脆くなった高齢者に多いです。50歳代から少しずつ目立ち始め、80歳代がピークです。高齢者ほど軽微な外傷で骨折を生じる傾向があります。寝がえりをして受傷する例もあります。
交通事故では、自転車・原付と自動車の衝突で、自転車・原付の運転者に起こることが多いです。
大腿骨近位部の骨折は、大きく3つに分けられます。大腿骨頸部骨折のほか、大腿骨転子部骨折、転子部よりも下が折れる大腿骨転子下骨折の3つに分類されています。
3つの分類の中で発生頻度が高いのは、大腿骨頸部骨折です。
事故直後から、痛み、腫れ、関節の可動域制限等を訴え、歩行できないことが一般的です。骨折が軽微であるときは、転子部骨折や転子下骨折に比較すると、痛みが軽く、受傷直後は歩けることもあります。
頸部骨折は股関節内の骨折であることから、骨折による腫れが外部に現れるのには時間を要しますし、肘や膝などの骨折ほど腫れが大きくは現れません。しかし、健側と比較すると明らかであることが多いです。
大腿骨頸部骨折の多くは、レントゲン画像で分かります。
ただし、骨折線が映りにくいこともあります。このときは、CT撮影やMRI撮影を行います。
大腿骨頸部骨折は、次の4つに分類されています。
- Stage Ⅰ 不完全な骨折
- Stage Ⅱ 完全骨折だが、転位が全くないもの
- Stage Ⅲ 完全骨折で、骨頭が回旋転位(不完全転位)しているもの
- Stage Ⅳ 完全骨折で、骨折部が離開(完全転位)しているもの
イラストのⅠまたはⅡのように転位のないものは、保存的治療が可能ですが、長期間のベッド上の安静と牽引を必要とするため、全身状態が良好で合併症が深刻でなく、かなりの長期間寝続けることに耐えられる状態である必要があります。
したがって、近年では、早期離床をはかるため、転位がなくとも観血的に固定術が実施されることが多いです。
イラストのⅢまたはⅣのように、関節の中で骨折し、骨折部に転位が生じたときは、骨頭に栄養を送る血液の流れが遮断され、骨頭壊死を起こし、最悪の場合には骨頭が潰れる可能性があります。そこで、このようなときは、骨頭を取り換える人工骨頭置換術を行うことが一般的です。
手術を行った後は、早期からの規律・歩行を目指した訓練が必要です。通常、手術翌日からベッド上の座位訓練が行われます。
保存的治療を行ったとき、この骨折は、骨癒合に失敗しやすいものだとされています。その理由として挙げられているのは次のようなものです。
- ① 患者が高齢者であることが多く、患者の骨再生能力が低下していることが多い
- ② 骨折面が斜めになるため、大腿骨の横方向からの力(剪断力)が働き、骨癒合を妨げ、変形癒合や偽関節に至りやすい
- ③ この骨折は大腿骨頸部を走行している動脈を損傷して血行が断たれやすく、血行障害による骨癒合不良や骨頭壊死に至りやすい
- ④ 年齢からくる意欲の低下等で、効果的なリハビリがスムースに実行できない
大腿骨頸部骨折の後遺障害認定のポイント
1 後遺障害の対象となるのは、①股関節の機能障害(可動域制限、人工関節・人工骨頭)、②股関節の痛みです。
2 股関節の可動域制限の機能障害
機能障害 | |
---|---|
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
股関節 | 主要運動 | 参考運動 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
屈曲 | 伸展 | 合計 | 外転 | 内転 | 合計 | 外旋 | 内旋 | 合計 | |
参考可動域(正常値) | 125 | 15 | 140 | 45 | 20 | 65 | 45 | 45 | 90 |
8級7号 | ― | ― | 15 | ― | ― | 10 | ― | ― | ― |
10級11号 | ― | ― | 70 | ― | ― | 30 | ― | ― | 45 |
12級7号 | ― | ― | 105 | ― | ― | 45 | ― | ― | 65 |
(実際には参考可動域と比較するのではなく、健側の可動域角度と比較します。)
- 8級7号が認定されるためには、2つの主要運動の双方で、強直もしくはそれに近い状態(他動では動くが、自動では健側の可動域の10パーセント程度以下)である必要があります。
- 10級11号が認定されるためには、屈曲・伸展または外転・内転のいずれか一方の主要運動が、健側の2分の1以下に制限されていれば足ります。
- 12級7号が認定されるためには、やはり屈曲・伸展または外転・内転のいずれか一方の主要運動が、健側の4分の3以下に制限されていれば足ります。
- 10級と12級においては、8級と異なり、屈曲・伸展または外転・内転のいずれかの可動域制限があれば足りることには、注意が必要です。
主要運動の合計の角度が、健側の2分の1または4分の3をわずかに超えているときは、参考運動が考慮されます。
- 屈曲・伸展の合計角度が健側の2分の1+10度または4分の3+10度のときは、参考運動の外旋・内旋の合計角度が健側の2分の1または4分の3以下に制限されている場合は、10級11号または12級7号に当たります。
- 外転・内転の合計角度については、健側の2分の1+5度または4分の3+5度のときは、参考運動を考慮します。
ところで、可動域の角度が制限されているというだけでは、等級認定はされません。その原因が画像上明らかであることが必要です。
大腿骨頸部骨折等、骨折を原因とする可動域制限は、骨折の形状、行われた手術の内容、その後の骨癒合の状況等に原因があります。
骨折後の骨癒合の状況は、3DCTで立証します。
Stage Ⅰで骨折線が不明瞭なときは、MRI撮影で立証しなければなりません。
3 股関節を人工関節・人工骨頭にした機能障害
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)が認定されることが多いです。
この立証は、レントゲン撮影で行います。
人工骨頭または人工関節を挿入置換し、かつ主要運動のいずれか一方の可動域角度が健側の2分の1以下に制限されたときは、8級7号に当たるとされています。ただし、人工骨頭や人工関節を挿入する手術を行ったにもかかわらずこれほどの可動域制限が残ってしまうことは、通常はありません。
この可動域制限の原因の立証には、MRI撮影や3DCT撮影が必要だと考えられます。
4 股関節の痛み
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)、「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)が認定されることがあります。
5 大腿骨頸部骨折の後遺障害のまとめ
①可動域制限の機能障害、②人工関節・人工骨頭の手術、③痛みの後遺障害の可能性があります。
①可動域制限の機能障害
・「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」(8級7号)
・「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)
・「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(12級7号)
②人工関節置換術・人工骨頭置換術をした場合
・「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(10級11号)
③痛み等の障害
・「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)
・「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)