車を持っている方であれば,多かれ少なかれ自分の車に対する愛着を持っていると思います。特に,思い出のたくさんつまった車,やっとの思いで手にいれた車,クラシックカーのようにたくさんのメンテナンスをしてきた車だったりしたら,思い入れも強くなりますよね。
そのような大事な愛車が事故によって傷をつけられたら,慰謝料を請求したくなる気持ちも出ると思います。
では,法律的に,そのような請求はできるのでしょうか。
事故によって車が傷ついた物損の場合,その損害が回復されれば,精神的損害も回復されたとみなされるとされています。
つまり,車の修理が完了すれば,「大事な愛車が傷つけられた!」という精神的ショックも回復したものと考えられているということです。
裁判例でも,財産的権利を侵害された場合に慰謝料請求をし得るには,被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情があることが必要とされています(東京地裁平成1年3月24日)(平成28年損害賠償額算定基準上巻235頁)。
上記のとおり,物損が生じたことを理由とする慰謝料請求はなかなか難しいものがありますが,100パーセントできないわけではなく,できる場合もあります。
慰謝料請求できる場合とは,「事案の内容に照らし,交通事故によって,財産権だけではなく,これとは別個の権利・利益が侵害されたと評価しうるような場合」に認められるとされています(交通損害関係訴訟240頁)。
では,その慰謝料請求できる場合とはどのような場合なのでしょうか。以下で具体的事例を見てみましょう。
①加害者が飲酒運転により駐車車両に衝突し,そのまま現場から当て逃げした事案につき,被害者が現場付近を捜索し,数百メートル離れた駐車場で加害車両を発見したこと等から10万円の慰謝料を認めた事例(京都地裁平成15年2月28日判決)(平成28年損害賠償額算定基準上巻235頁)
②投票日の2日前に交通事故に遭い,車両を利用した街宣活動が半日困難となって選挙活動が精彩を欠いたものになったケースで,原告車の修理代等の物損の補填によっては償いきれない有形無形の人格的利益の損害が生じたものと認めるべき特段の事情があるとした事例(大阪地裁平成5年5月13日)(交通事故の法律相談78頁)
このように,認められている事例では,車に傷ついたことそのものではなく,車が傷ついたことによって生じた支障や事故態様を理由として慰謝料を認めています。
他にも,車が家に突っ込んだり,車が墓地に突っ込んで墓石を損壊させたりした場合に慰謝料を認めた事案もあります。