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高次脳機能障害の失認

高次脳機能障害の失認

最終更新日:2023年7月3日

監修者:よつば総合法律事務所
代表弁護士 大澤 一郎

Q高次脳機能障害の失認とは何ですか?
A失認とは、視覚や聴覚などの感覚を通して物を認識できなくなる障害です。①視覚失認②聴覚失認③相貌失認④街並失認⑤身体失認などがあります。
失認を本人が自覚し、リハビリを行うことが社会復帰につながります。
高次脳機能障害の失認

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは脳損傷による認知障害全般です。様々な認知障害だけではなく、行動障害や人格変化を伴うことが多いです。症状には記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。

高次脳機能障害の失認とは

失認(しつにん)とは、視覚や聴覚などの感覚を通して物を認識できなくなる障害です。次のような失認があります。

  • 視覚失認
  • 聴覚失認
  • 相貌失認
  • 街並失認
  • 身体失認

視覚失認

視覚失認とは、目の前にある対象物が何か答えられない症状です。

たとえば、万年筆を見たときに万年筆とわかりません。しかし、手に取って持ったら万年筆とわかるのが視覚失認の症状です。

目に見えているものを1つのまとまった形にできない「統覚型視覚失認」と、形はわかるが意味がわからない「連合型視覚失認」があります。

聴覚失認

聴覚失認とは、聴力には異常はないものの、言語音や非言語音が理解できない症状です。

聴覚失認になると、聴覚に異常はないのに聴覚に関する情報処理に問題が発生します。そのため、人の話や環境で発する音、音楽などを聞いても内容がわかりません。

会話が困難になるなど、日常生活に支障が出ます。

相貌失認

相貌(そうぼう)失認とは、人の顔が覚えられなかったり、分からなかったりという症状です。

人の顔を覚えるのが苦手という人がたまにいます。しかし、人の顔の区別ができないのが相貌失認です。

相貌失認になると、よく知っている人に会っても誰かわかりません。相貌失認の人は、人の顔は皆同じように見えたり、顔の部分だけぼやけて見えたりします。そのため、知っている人でもわからないのです。

街並失認

街並失認とは、熟知した家屋や街並をみても家や通りを把握できず、道をたどる上での指標になり得ないため、道に迷う症状です。

何度も通ったことのある街並を見ても、どこかわからなくなります。

街並失認になると、良く知っている見慣れた町の風景も初めて見るように感じます。新しい場所の地図や見取り図を書くことは困難です。

街並失認は、右側の海馬の傍回の損傷が原因となって、視覚による認知と記憶の回路が絶たれて起こると考えられています。

身体失認

身体失認とは、空間的な自己の身体像に関する知覚や知識の障害の症状です。

身体失認は次のような症状があります。

  • まるで体の片側がないように無視する「片側身体失認」
  • 自分の体の半分がどこにあるかわからない「定位困難」
  • 手指の認識が困難である「手指失認」
  • 手指失認、左右失認、失書、失算の4つの症状を伴う「ゲルストマン症候群」
  • 麻痺している手足を自分のものではないと主張する「身体パラフレニー」

失認の検査

失認は、感覚器から入る情報をうまく処理できずに起こります。感覚器自体には障害は起きておらず、ネットワークが問題です。

失認を疑う症状が現れたときは、まず視覚や聴覚など感覚器を検査します。その他、高次脳機能障害に現れやすい失語、記憶障害なども調べます。

他の障害による影響を否定したときは、失認と結論づけます。

視覚失認の検査

実物を見せて呼称を答える、物の絵を見せて呼称を答えるなどの検査を行います。
相貌失認の検査は、人の顔の写真を用いて顔を認識できるかテストします。

標準高次視知覚検査(VPTA) は、失認の検査に良く用いられるテスト方法です。7つの項目から構成されていて、115枚の図を用いて検査します。

聴覚失認の検査

語音の認知、環境音認知、音楽認知などの検査をします。

身体失認の検査

身体の部位を言い、患者が自分の体でその部位を指してもらったり、身体を描いた図を患者の前に置いて該当する部位を示してもらったりする検査をします。

失認のリハビリ

高次脳機能障害による失認は完治が難しいです。時期や症状の程度に応じたリハビリを行いましょう。

失認の自覚が重要

失認でもっとも多いのが視覚性失認です。「たしかに見えているのに、見ても対象物が何なのかわからない」という症状が典型です。

失認の症状は多様で、視力障害・色覚障害・視野障害など他の障害を併発することもあります。半側空間無視・失読・注意障害などの症状を伴うことも珍しくありません。失認のリハビリは、失認および併発する後遺症を観察し、それぞれの障害を把握した上で症状改善に向けたプログラムを組むことが求められます。

リハビリは、何を目標として訓練するかが重要です。

失認を自覚していないことが多いので、まずは失認の自覚が重要です。失認を自覚できれば、生活にどのような影響が出ているのか、なぜリハビリが重要なのか理解できます。

失認を自覚すると、リハビリに積極的になることが多いです。

急性期のリハビリ

急性期は意識障害を伴うことがあります。そのため、失認の評価が難しいときもあります。

しかし、急性期に失認を見逃すと、失認の症状が長期にわたり残ることがあります。改善しにくいこともあります。

急性期の患者家族は、失認と思える症状に気付いたら、すぐに医療従事者に伝えましょう。

慢性期のリハビリ

慢性期は、急性期に気付かなかった失認に気付くことがあります。

家族は失認を理解し、被害者本人の生活の質を高めるよう努力しましょう。職場復帰、在宅勤務、転職など社会と関わりを持つ方法を検討しましょう。就労支援機関への相談も選択肢の1つです。

まとめ:高次脳機能障害の失認

失認とは、視覚や聴覚などの感覚を通して物を認識できなくなる障害です。次のような失認があります。

  • 視覚失認
  • 聴覚失認
  • 相貌失認
  • 街並失認
  • 身体失認

失認を本人が自覚し、リハビリを行うことが社会復帰につながります。

(監修者 弁護士 大澤 一郎

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